やわらかサイエンス

日本の迷水

第42回担当:重廣道子(2007.01)

2006年が暮れ,2007年が明けました。年末から年始にかけては宴が多いものです。宴と言えばお酒がつきもの。美味しいお酒を造るには,「水が命!」と多くの職人の方々がおっしゃいます。お酒の原料の米も,水が良くなくては出来栄えが劣ります。お酒だけではなく,人間にとっても水は命です。


私は「美味しい水を飲みたい!」と常々思っています。ペットボトルに詰められた水を買うこともしばしばあります。国内産から国外産まで,店頭に並ぶ水は様々です。その中でもつい手が伸びるのは,「日本の名水百選」という文字がプリントされたラベルのボトルです。名水百選・・・という文字から,私は,「美味しい水」を連想します。名水を飲んでみると・・・「さすが名水。おいしい!」と思うことがあれば,「あれ?名水のはずなのに,意外に普通・・・」ということもあります。日本の名水百選とは,一体誰が選んだのでしょうか?一体何が名水の基準なのでしょうか?


shigeとその仲間達、考え中...の図

日本の名水百選は,環境庁(現在の環境省)が設けた「名水百選調査検討会」が,1985年に全国各地の湧水(自噴),河川,地下水の中から選定をしました。この100箇所を選ぶために,環境庁は各都道府県に,湧水,河川等の調査を依頼しました。その結果,784件もの報告があり,その中から100の大規模な湧水,河川が選定されたのです。


選定の必須条件とされたのは

  • 質・水量、周辺環境(景観)、親水性の観点からみて、保全状況が良好なこと。
  • 地域住民等による保全活動がなされていること。


以上の2点であり,その他に次の項目について考慮されました。

  • 規模
  • 故事来歴
  • 希少性、特異性、著名度等


「なるほど。でも,ん・・・?水が美味しいか否かは選定項目には入っていないではありませんか。」だからと言って,美味しくない水,という意味では当然ありません。ただ,名水に選ばれている水が,飲み水としてふさわしいかどうか,というのはまた別な話なようです。では,環境庁が名水百選を選定したのは何故でしょうか。それは,水を護るということに対する人々の意識と活動を高めるためです。


「な~んだ,名水百選は,美味しい水の指標ではないのか。そんなの名水の意味がない。」・・・などと思ったりしないで下さい。水は,人間ののどを潤すためだけに存在するのではありません。以前にもお話しましたが,水は血液のように地球を循環します。地球上の動植物が,水の恩恵を享受しています。ですから,水環境を護ることは,地球の自然環境を護ることに繋がります。


日本の名水百選が選定されてから,二十余年が経過しています。名水は,名水のまま保たれているでしょうか?美しい水の保全活動は,変わらず継承されているでしょうか。名水の保全には,その土地の人々の活動が必要です。が,それだけではなく,名水を訪れてくる人々の,ゴミを捨てない,水を過剰に採り過ぎない,といった意識・協力も必要になります。


名水という文字に好奇心が刺激され,自分が生まれ育った,あるいは居住している都道府県の名水は一体どこにあるのだろう・・・?名水が湧き出ている場所を訪れてみたい!そんな気持になりませんか?日本の名水一覧は,環境省のホームページに紹介されていますので,是非目を通して足を運んでみて下さい。2007年も,胸に抱く何故?の答えを探しながら,我々が住む地球環境に対する理解を深めていきましょう。


shigeとその仲間達、水を飲んで喜ぶ図