
流氷ができるわけ~知床半島の流氷の秘密~
2005年7月,知床半島は屋久島,白神山地に次ぐ3番目の世界遺産に登録されました。登録の理由は海と陸の生物が密接につながる生態系があることや,希少動物がたくさん生息していることなどです。そのような理由から,知床半島における世界遺産の範囲は陸だけではなく海の範囲も存在します。
知床半島付近の海域は,流氷が見られることでも有名です。用語の説明をすると海水が凍結してできた海で見られるすべての氷のことを「海氷」といい,岸に定着せずに,漂流している氷のことを「流氷」といいます。この流氷は,例年,オホーツク海では,1月半ばになると知床半島までやってきて,2月には知床半島の周りが氷で埋め尽くされます。知床半島の同じ緯度の日本海や太平洋では流氷が起きません。では,この知床半島にだけに流氷ができる秘密があるのでしょうか?
まず,流氷の海を作り出す水の起源はアムール川の水であると言われています。アムール川は全長4400km,モンゴル高原から中国,ロシアの国境を抜けてオホーツク海に流れています。また,最近の研究ではオホーツク海を栄養の豊かな海にしているのはアムール川から流出する「鉄分」が大きな役割を果たしていることもわかってきています。
では,なぜ,この知床半島を含むオホーツク海の水は凍るのでしょうか?その理由として3つの要因があります。一つ目は,シベリアからの厳しい寒気があることです。これは間違いなく流氷を作り出すために必要な条件です。このシベリアの寒気は-40℃にも達するそうです。
二つ目は,オホーツク海の表面に低塩分水の層があることです。主にアムール川から流れ込む水によって塩分濃度が極端に低い層で覆われ,その部分が寒気によって冷やされる。そうすると,冷たい水は密度が大きいので沈み,それより下の暖かい水と入れ替わるいわゆる「対流」が起きます。しかし,低塩分水は冷えても,高塩分水よりは重くならないため2つの層の境よりは下に沈みことはありません。そのため,この低塩分濃度の層だけで急速に凍っていきます。この塩分濃度の低い層は,表層から50mの深さにわたって形成されているといわれています。この低塩分濃度層と高塩分濃度層の2重構造は,オホーツク海特有のものなのです。

三つ目にオホーツク海の地形にあります。オホーツク海は千島列島,カムチャツカ半島,ユーラシア大陸,サハリンなどに囲まれています。そのため,太平洋や日本海との間で海水の出入りが少ないと考えられています。このため,二つ目の理由で説明した2重構造が壊されにくくなっているわけです。また,海域で発達した流氷は太陽光を反射するため,なお一層,寒冷化進み,流氷域の拡大を助けています。
JAXA/EORCにて処理した今現在のオホーツク海の海氷分布画像を下記のページで公開しています。もし,興味がある方は宇宙航空研究開発機構ホームページをご覧ください。
Newtoton,2006年3月号
知床サイト:http://shiretoko.muratasystem.or.jp/
宇宙航空研究開発機構ホームページ:http://sharaku.eorc.jaxa.jp/ADEOS2/index_j.html