
永久凍土の今後の行方は?
季節が秋から冬に変わろうとしています。今年の紅葉の時期は、例年に比べて遅くなりましたが、みなさんはどこかの紅葉スポットには行かれましたでしょうか?日本で最も早く紅葉が見ることができるのは北海道大雪山旭岳で、東京ではまだまだ残暑が厳しい8月に入ると徐々に色づき始めます。そして、さらに9月中旬には初雪が観測されるそうです。
紅葉の時期とともに毎年話題になるのが富士山の初冠雪の時期です。今年は、甲府地方気象台によると10月11日に初冠雪を観測し、平年より10日遅く、昨年より10日早かったそうです。
さて、この大雪山と富士山ですが、この二つの山に共通して存在するものがあります。それは、永久凍土です。今現在、日本の永久凍土は北海道の大雪山、富士山、富山県の立山だけで確認されています。そもそも凍土とは極端な低温のために土壌や岩石が地下深くまで凍りついたものを示します。凍土には「季節凍土」と「永久凍土」があります。「季節凍土」とは冬季だけ凍土となり、暖かくなると融けてなくなってしまうものです。その一方、「永久凍土」は常に凍っている状態にあるものを示し、永久凍土ができる条件としては、地表面の年平均気温が0℃以下でなければなりません。世界中を見渡してみるとロシア・カナダ・グリーンランドなどで広く分布し、場所によっては永久凍土の深さが1000mにまで達しているそうです。
大雪山は、道内最高峰の旭岳(2290m)をはじめ2000mを越す火山10数座の総称です。この大雪山は、中生代および新第三紀の火山岩類が基盤となり、海抜1000m近くまで及んでいます。その基盤の上に火山の噴出が相次いで、溶岩台地、溶岩円頂岳、カルデラ火砕流台地などを形成し、今の大雪山の原形ができたとされています。
また、火砕流台地は石狩川により深く侵食されて峡谷が形成され、それが観光名所となっている層雲峡なのです。層雲峡では、岩体に規則的な割れ目が形成された柱状節理が見ることができます。
永久凍土の存在は、植生に影響を及ぼしています。永久凍土地域では乾燥型のみの植生が分布するはずなのに、なぜか、湿潤型の植生も見ることができるそうです。そのわけは、永久凍土地域では、凍土が地下水の下方への浸透を防ぐため地下水が上昇します。そのため、平坦な地形な場所であれば池などが形成され本来ならば乾燥型の植物群のみが分布すべき土地に湿潤型の植物群が混入しているというわけなのです。つまり、永久凍土の存在は湿潤型の植物群を育んでいるのです。

冬の層雲峡。柱状節理が発達して美しい景観となっています。

大雪山系の一つである黒岳の山頂。
冬は天気の良い日しか見ることができません。この日はラッキーでした。
富士山は言わずも知れた美しい山です。火山活動の歴史は浅く、最も古くても小御岳の活動の70万年前で、最近ではおよそ1000年前に終了したばかりの火山です。そのため、富士山の植物や動物の種類はまだ未発達で、日本アルプスと比較しても、ハイマツは分布していませんし、ライチョウも見ることはできません。
富士山山頂部にある永久凍土は1970年に発見されました。しかし、最近気なるデータが観測されてきています。それは、過去25年の間、富士山の南斜面について標高2500mから山頂部まで50cmの地温を測定したところ、1970-1976年では標高3250m付近が永久凍土の下限高度であったのに対し、2000年で認められた永久凍土の下限高度は3550m付近と推定されました。
つまり、このことは過去25年で300m近く、永久凍土の下限高度が上昇したとことになります。この理由として主として冬季の温暖化に依存していると考えられています。このまま温暖化が進むと、やがては富士山に永久凍土がなくなってしまうのでしょうか?

今年話題になり、シベリアの永久凍土から見つかったマンモスについてご存知な人も多いと思います。このマンモス発見は、当時の気候やマンモスの生態の謎を解く貴重なデータが得られる可能性を秘めています。しかし、皮肉なことにこのマンモスの発見も温暖化により永久凍土が融け出すことで、発見率が高くなっているのです。これから、温暖化の進行と永久凍土の減少はなお一層増していくのでしょうか?今後の永久凍土の動きに注目です。
小泉武栄:山の自然学、岩波新書、1998.
藤井理行、福井幸太郎、池田敦、増沢武弘:富士山の地温分布変化が示す過去25年間の永久凍土の縮小、日本雪氷学会全国大会講演予稿集、2002