やわらかサイエンス

月にまつわるエトセトラ

第28回担当:冨永英治(2005.09)

今年も、暑い夏が終わろうとしています(まだ、日中の暑さは耐え難いものがありますが....)。秋になると夜も長くなり、お月見をされる方などは多いと思います。そんな風習のせいなのかもしれませんが、一年の中で秋の月がきれいだなと感じるのは私だけでしょうか?今年の中秋の名月(十五夜)は、9月18日でしかも幸運なことに満月です。そもそも、お月見は旧暦の8月15日にサトイモを食べることから、もともとはサトイモの収穫祭であったという説もあるようです。その後、その風習が奈良~平安時代頃に日本に入ったようです。そんなわけで、今回のやわらかサイエンスでは「月」にまつわるお話をいたします。


私たちが住む地球上では月の影響を受けて様々な現象が起きています。そのうちの1つに、潮汐があります。潮汐とは、大潮・小潮などの潮の満ち引きが周期的に繰り返される現象のことです。この潮汐というのはどのようにして起きているのかというと、月と太陽の引力や地球と太陽、地球と月の公転運動による遠心力が合わさって地球上の海面を引き寄せています。その力を潮汐力または起潮力と呼ばれています。(実際には、この潮汐力は地球表面の海水だけではなく、地球内部にも働いています。しかし、海水に比べて地球内部は硬いためその影響はとても小さいものとなっています。)
もう少しだけ、詳しく言いますと、月と地球との関係は、月の引力と、月と地球を合わせた重心を回る公転運動の遠心力が地球の重心のところで釣り合っています。しかし、月に面した地表では月への距離が重心よりも近いため、遠心力よりも引力が大きくなり月の方へ引き寄せようとする力が働き、その一方、月とは反対側の地表では月からの距離が遠いため引力よりも遠心力の方が大きくなり月の反対方向に力が働きます。そのため、月に面した地球表面、反対側の地球表面の双方で水面を高めようとする力が働きます。


月との引力

太陽の引力は月の引力に比べて大きいのですが、太陽と地球との距離が月との距離に比べてずっと大きいため、地球と太陽との関係で生じる起潮力は、月との関係で生じる起潮力の約半分にしか過ぎません。
そんなわけで、この海面を引き寄せる力が最も働く時は、太陽と地球と月とが一直線に並んだとき、すなわち満月の時と新月の時で、私たちは「大潮」と呼んでいます。その一方、地球から見て月と太陽が直角に見えるとき、すなわち半月の時、最も海面を引き寄せる力が弱くなり、私たちは「小潮」と呼んでいます。


大潮

小潮

「大潮の時はよく魚が釣れる」なんてことをよく耳にします。この潮の満ち引きは釣り人にとって、とても重要になります。そのわけは、大潮の時は潮の干満の差が大きいため、潮の流れが速くなります。潮の流れが速くなると、プランクトンなどが潮の流れで動き、それを捕食する小型の生物の活動が活発化し、それに伴い大型の生物の活動も活発になるということなのです。
月の存在を気にしているのは釣り人だけではありません。たとえば、アカテガニ(Chiromantes haematocheir)は、7~8月の大潮の日付近に大挙して山から下り、満潮時に子供(幼生)を海に放ちます。また、海にいる牡蠣(カキ)は、干満潮に会わせて殻を開きます。この生物の行動と月の関係の正体はまだ、明らかにはされていませんが、様々な生物が月の影響を受けているようです。私たち人間もその例外ではないことも言われています(ちなみに私事ですが、先日誕生した我が子の出生日は満月の前日(大潮時)でした。月の力を感じ取っていたのかどうか後日、本人に聞いてみたいと思います。)。


アカテガニ
無数のアカテガニ達が河口に向かって大移動を始め、
やがて、河口に到着したアカテガニたちは一列に並び、順に川に入っていく様子。
(須美江ファミリー水族館ホームページ:〔http://www15.ocn.ne.jp/~nobekan/crea/kani/kani.html〕 2005/8/15アクセス)

そんな地球上の生き物と密接に関わっている月ですが、もし、月がなかったら地球や私たち人間を含めた地球上の生物はどうなっていたのでしょうか?この内容についてはアメリカの天文学・物理学教授のニール・F・カミンズ博士がさまざまな考察を展開しています(なお、この内容は今開催中の2005年国際博覧会愛・地球博 三菱未来館で展開されています。)。
まず、月による潮汐がなくなるため、今現在のような干潮・満潮の高さが一年を通じて、一定になってしまいます。また、月の潮汐がないことから、地球の自転速度が今よりも早く1日が8時間となり、中緯度地帯では昼の長さが3時間から5時間程度となってしまいます。自転速度が速いため東西に吹く風は今よりもずっと強くなり、それに伴い、露出されている岩石などは侵食され、今現在の地球上の地形とは全く異なっていたと考えられています。その状態は、今の土星と木星に見ることができて、土星と木星は1日10時間とやはり自転速度が速いので東西方向の風が時速480kmの速さで吹いているそうです。この他にも磁場、大気組成なども大きく今の地球とは異なっていたと考えられています。そのような状態で生き物たちはどのようにして環境に対応したのでしょうか?1日があっという間に過ぎ、外では強風が吹いていて....とても厳しい環境であることは間違いなさそうです。


もし、月がなく上記のような環境になっていたら....と想像しただけでも、月があってよかったとつくづく感じるものです。現在、月は地球にさまざまな影響をもたらし、その結果、地球上の生き物たちもその影響に順応しながら生きています。私たち生き物にとって大事な月に感謝の気持ちをちょっぴり込めながら、9月18日の夜空を見上げてみたいと思います(月見だんごがあればなおいいのですが...)。




参考資料
■潮汐力に関して
1)http://www.saltwater.jp/tide/index.php?txtDISPOSE=HELP&txtPAGE=1
2)http://www.pref.tottori.jp/tottorikowan/tide.htm
■アカテガニに関して
1)http://www.geocities.jp/at_mocha/mimizu/mimizu04-10.htm
2)http://www15.ocn.ne.jp/~nobekan/crea/kani/kani.html
■もしも月がなかったら...に関して
1)ニール・F・カミンズ/著 竹内均/監修 増田まもる/訳:もしも月がなかったら―ありえたかもしれない地球への10の旅,東京書籍,351p.,1999.
2)三菱未来館ホームページ http://www.mitsubishi.com/expo2005/