
魚心あれば水心?---水は我々の心持ちに応えてくれるでしょうか?
暦は1月、季節は冬となりました。冬と聞いて何を思い浮かべますか?やはり真っ白な雪原、一面の銀世界ではないでしょうか。2005年の12月後半には、日本各地で記録的な積雪が観測されましたね。この大雪は、交通網の乱れ、事故、停電などといった混乱を我々の生活にもたらしました。一方で、雪はウィンタースポーツや、ダイヤモンドダストといった自然の美しさを愛でる喜びを与えてもくれます。畏怖の念と歓喜をもたらすこの雪は一体何からできているのでしょうか?
「水」ですね。質問が簡単過ぎたでしょうか。しかし、この雪も、雲、雨、霧、河川水、海水そして水道から出てくる水も、全てが水だと直ぐに連想出来ますか?津波、台風、大雪も、ミネラルウォターも同じ水です。水は複雑に姿を様々に変え、人間の生活、自然界に現われます。私達は、洗濯、掃除、調理等々、生活の中で大変身近に水を日々利用しています。そのため、水の存在を改めて考えることはあまりないでしょう。
想像してみて下さい。水と氷が入っているグラスがあります。氷も水も同じ水です。しかし、どうして氷は水に浮いているのでしょうか?何故かと不思議に思ったことはありますか?塩はどうして水に溶けるのでしょうか?雪は何故六角形なのでしょうか?とても身近な水であるのに、考えてみれば・・・不思議なコトだらけではありませんか?

近年、水は貴重な天然資源だと言われるようになりました。他の資源、例えば鉱石、石油などは人間がその価値を見出して利用していますが、水は人間だけでなく、地球上のあらゆる生物が生命の源として、直接摂取し、利用しています。さらに、人間は基本的な生命活動のためだけではなく、様々な目的、例えばエネルギーの生産に水を利用しています。
例としては、熱交換を利用した水冷式エアコン、ラジエーター、位置エネルギーを利用した水力発電、水蒸気の圧力を利用した火力発電、原子力発電などがあります。
私達は日々の生活で水を利用していますが、一体どれくらいの量の水を消費しているでしょうか。
日本人が毎日消費する生活用水(炊事、洗濯、風呂など)の量は、一人当たり300リットル前後だと言われています1)。さらに、前述のようなエネルギー生産への水の利用の他にも、食品や手にする工業製品などの製造にも水が使われています。
日本には河川や地下水が豊富にみえるため、水に関しては自給自足が出来ていると考えがちです。しかし、我々は、農産物、工業製品の多くを輸入に頼っています。作物、工業製品の生産には多量の水が消費されています。従って、工業製品、農産物を媒体として、水も同じく間接的に輸出入されることになります。日本は農産物の輸入大国です。日本国内での年間総水資源使用量は約900億トンと言われています。さらに農作物などの輸出入を通して出入りする水(Virtual water、仮想水)は640億トンと見積もられています2)。そう考えると、大変多くの水を輸入していることになります。つまり、世界の何処かで水不足あるいは水質汚染が起きれば、それは日本にも影響を及ぼすということになります。
エネルギー・作物の生産、飲料水、洗濯、炊事、風呂等々、人間は、水から恩恵を受けていますが、その一方で、水に纏わる問題も絶えることがありません。水を巡る紛争が各地で起きていますし、水質汚染、洪水、干ばつ、津波などの災害で、多くの生命が失われます。ここに非常に衝撃的なデータの一部を紹介しましょう3)。
- 水の汚染が原因で、8秒に一人の子供が病死している。
- 人口の半分は、下水道施設・衛生設備が整っていない環境で生活している。
- 2025年には、世界48ヶ国が水不足に陥ると推測される。
日本人の死因一位である悪性新生物(癌)により命をおとす方は1分51秒に一人4)、5)ということです。8秒という間隔から、水の汚染は人体の健康にとって凄まじい脅威となっていることが分かるでしょう。それだけ、水は生物の生命に多大な影響を及ぼすということです。そのため、日本では人間の健康を保護する為に、鉛、ヒ素などの成分の地下水中濃度基準値が決められています6)。また、土壌が汚染されると、当然そこから水に汚染物質が溶け出し、連鎖的に水質汚濁が引き起こされますから、土壌汚染対策法という法令により、土壌の汚染の対策も実施されています7)。水は法令により保護されなければいけないほど我々にとって重要であり、かつ汚されやすいものであると言えるでしょう。
8月1日は何の日でしょうか?
8月1日は「水の日」です8)。そしてこの日から1週間が「水の週間」として制定されています。水の日は、1977年に設けられました。つまり今をさかのぼり約30年前から、水を資源として確保することに関する問題、重要性が認識されていたわけです。約30年経った現在、その意識はどう変化したでしょうか。水への理解はより深まっているでしょうか。水に纏わる問題は解決されているでしょうか。これから、人間、そして地球上の生物の源である水について、そして水を通して地球のシステムについて考えていきましょう。そして、水は無限ではなく有限な資源であるということを理解し、水と共に生きていきましょう。
おまけ:氷は何故水に浮くのか?
氷は水が凍り、固体になったものです。
一般的に物質の体積は、温度が上昇すると増加するものです。例えば、夏に鉄道のレールが伸びたりしますね。これは熱膨張と呼ばれます。しかし、水は温度が低下し、凍ると体積が膨張します。
飲料水の入ったペットボトルをそのまま冷凍庫に入れ、ボトルが割れているのを発見したことはありませんか?寒い地方では、気温が氷点下になると、水道管中の水が凍って水道管が破裂することがあるといいます。また、コンクリートに含まれる水分が凍結し、それにより体積が膨張し周囲のコンクリートに圧力がかかり、コンクリートが破壊されたり、劣化したりする問題も珍しくありません。
水は不思議な物質で、4℃で最大密度を持ち、4℃から0℃に向かって密度が小さくなります。例えば、1Lの水を凍らせたとき、重さは変らず体積だけが増えますので、密度は減少します。そのため、同じ水から出来ていても、氷の密度が水より小さい=軽いため、水に浮くのです9)。

1)水の利用状況:国土交通省土地水資源局水資源部
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/c_actual/actual03.html
2)Virtual Water仮想水
http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/
3)世界の水問題:第三回世界水フォーラム
http://www.pref.kyoto.jp/wwf3-kyoto/contents02.html
4)保険統計情報:健康いばらきネット
http://www.hsc-i.jp/pref/statics/dotai/kakutei10-007.htm
5)平成16年 人口動態統計の年間推計:厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei04/
6)水質汚濁に係わる環境基準:環境省
http://www.env.go.jp/kijun/wt1.html
7)土壌汚染対策法:環境省
http://www.env.go.jp/water/dojo/law.html
8)水の日
http://www.water.go.jp/honsya/honsya/news/waterweek/head.html
9)一章水の性質と役割:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/030101ba.htm