やわらかサイエンス

地球から産まれる鳥

第20回担当:重廣道子(2005.01)

2005年の干支は酉です。そこで、新年の干支にちなんだ鳥の話をしましょう。地球の構造(地殻、マントル、コア)は、よく半熟卵に例えられますが、卵から雛がかえるように、地球からも鳥が生まれます。


例えば、かわせみ、孔雀、鶏が生まれます。正確に言えば、これらの鳥に由来する名前を持つ鉱物が産出されるということですが・・・。それでは一体何故そのような名前が付いたのか、一体どのような鉱物なのか見てみましょう。その前に、先ずかわせみ、孔雀、鶏冠をイメージしてください。



翡翠輝石(ひすいきせき)、英名:jadeite

翡翠(ひすい)と聞くと、緑豆色をした宝石・鉱物を思い浮かべることと思いますが、翡翠はかわせみの漢字表記でもあります。その美しい羽の緑色に由来して、鉱物の翡翠は名付けられたと言われています。一方で、英語名Jadeiteは思いもよらぬ起源をもちます。その名はスペイン語の"piedra de ijada"=「横っ腹の石」に由来します。これは、腎臓結石やその他腎臓系の疾病の治癒に効果があると信じられていたためです。


翡翠輝石は高圧低温下で生成される変成岩で、広域変成岩であるナトリウムに富む蛇紋岩中等に存在します。良質な翡翠の主な産地はミャンマーですが、日本国内でも新潟県から富山県にかけての海岸沿いで発見され、糸魚川市、青海町では、天然記念物になっています。


翡翠の緑色は微量のクロムに起因するものです。青、薄紫といった色のバリエーションは、微量のCa、Mg、Fe3+、Fe2+の混合によるものです。


翡翠と間違われやすい石に、角閃石(かくせんせき)の仲間のネフライト(Ca2(Mg, Fe)5Si8O22(OH)2)があります。翡翠もネフライトも昔は同一の石だと思われていたため、どちらも「玉」と呼ばれていました。今では、「硬玉(こうぎょく)」は翡翠、「軟玉(なんぎょく)」と言えばネフライトをさします。英語でも、Jadeというと翡翠輝石とネフライト、Jadeiteというと翡翠輝石を意味します。


翡翠輝石の鉱物データ

(鉱物の特性についてはやわらかサイエンス7回参照)

名前:翡翠輝石(ひすいきせき)、Jadeite
化学組成;NaAlSi2O6
分類:珪酸塩鉱物
色:白、菫、緑色、薄青色など
条痕:白
光沢:ガラス光沢
晶系:単斜晶系
硬度:6.5-7
劈開:完全
比重:3.3-3.5

かわせみ
jadeite


孔雀石(くじゃくせき)、英名:Malachite

孔雀石の名は、その字が表す通り、石がもつ鮮緑色、同心円状の縞模様模様が孔雀の羽根のようであることから付けられました。英名は、ギリシャ語で"Moloche"と呼ばれる孔雀石と良く似た緑色のハーブ(アオイ)に起源をもちます。


孔雀石は古くから人間の生活に利用されてきました。エジプトでは紀元前4000年頃から採掘され、顔料として使われていました。クレオパトラが孔雀石の粉をアイシャドウとして使っていた、という話も残っています。また、一般的に絵の具としても使用されていました。


孔雀石が放つ鮮やかな緑色は、含有される銅によるものです。孔雀石は黄銅鉱(CuFeS2)等の銅の二次鉱物であり、銅の表層部が水と二酸化炭素と反応して生成されます。日本でも採掘されていましたが、現在の主な産出国はコンゴです。


孔雀石のデータ

名前:孔雀石(くじゃくせき)、Malachite(マラカイト)
化学組成:Cu2(CO3)(OH)2
分類:炭酸塩鉱物
色:緑色
条痕:淡緑
光沢:ガラス光沢、絹糸光沢
晶系:単斜晶系
硬度:3.5-4
劈開:完全
比重:4.05

くじゃく
Malachite


鶏冠石(けいかんせき)、英名:Realgar

鶏冠石の名は、その鉱物の持つ色と結晶形状が、ニワトリのとさかに似ていることに由来します。英名のRealgarは、アラビア語の"rahj al ghar"=「鉱山のほこり」に起源を持ちます。これは、鶏冠石が熱水金属鉱床の脈石として産出し、探鉱の指標としての役割をしていたためだと言われています。あるいは、鶏冠石の結晶はもろく壊れやすいため、鶏冠石を含む鉱石採掘現場では、大変な量の粉塵が出るためでしょうか。


鶏冠石と人間の付き合いも長いものです。古代エジプトでは、孔雀石と同様顔料として利用されていました。日本では群馬県の馬県甘楽郡下仁田町西ノ牧鉱山で採掘され、日本画の顔料の他に、花火の原料として使用されていました。


鶏冠石は砒素の硫化物です。揮発しやすく、アルカリ性溶液に溶解しやすいという特性を持ち、温泉孔や火山孔に昇華(昇温により、固体→液体→気体ではなく、固体→気体に相変化する)・析出します


鶏冠石のデータ

名前:鶏冠石(けいかんせき)、Realgar
化学組成:AsS
分類:硫化鉱物
色:赤、オレンジ色、黄色、橘黄
条痕:淡黄
光沢:樹脂光沢
晶系:単斜晶系単斜晶系
硬度:1.5-2
劈開:良好
比重:3.5-3.6

にわとり
Realgar


イメージした通りの鉱物でしたか?
鉱物が身近なものとして感じられましたか?
鳥のように美しくはありますが、上記の鉱物は、クロム、銅、あるいはヒ素を含んでいます。クロム、銅、ヒ素は、濃度によっては汚染を起こす可能性がある物質として、土壌・地下水環境基準濃度(この基準中のクロムは六価です)が指定されている物質です。この他にも鉱物の中には、酸素・水に触れることによって、有害な成分が溶出・流出し、環境汚染を引き起こすものもあります。それではこれらの元素を含む鉱物は全て有害であるのか、と言えば必ずしもそうではありません。きれいな色を愛でるだけではなく、何故そのような色を持つのか、一体どのような環境で出来たのか、有害になり得るのか否か等々疑問を持ちながら、今後更に鉱物、地質、地下水、環境etc.について学んでいきましょう。環境汚染、資源の枯渇、地球温暖化等々多くの課題・問題を抱えていますが、地球に関する理解を深めることは、問題解決への一歩前進となるはずです。




参考資料
http://mineral.galleries.com/minerals/by-name.htm
Chesterman, C.W,, 1993, The Audubon Society Field Guide to North American Rocks and Minerals, Alfred A. Knopf, Inc., New York, 850pgs..
Cepeda, C. J., 1994, Introduction to Minerals and Rocks, Mcmillan College Publishing Company, 217 pgs.

鉱物写真の出典
産業技術総合研究所 地質標本館
http://www.gsj.jp/Muse/index.html
翡翠輝石:http://www.gsj.jp/Muse/hyohon/keisan/ino-m16585.htm
孔雀石:http://www.gsj.jp/Muse/hyohon/tansan/tansan-m14681.htm
鶏冠石:http://www.gsj.jp/Muse/hyohon/ryuka/ryuka-m04247.htm