コラム

変形・地下水・熱の連成問題

陽解法のすすめ/第10回担当:里 優(2016.10)


前回と前々回で、変形と地下水流れの連成問題を陽解法で解く方法と解析例を紹介しました。今回は、さらに熱の移動も加えた連成問題を解く方法を説明します。


最初に、例によって支配方程式を示します。詳しくは、「変形・地下水・熱の連成問題に関する支配方程式と陽解法」をご覧ください。なお、凍結は考慮していません。地下水が凍結した場合については、次回に改めて詳しく説明する予定です。


まず、地下水流れの支配方程式で、これまで説明してきたものに水の膨張による密度変化が加えられています。


式-1

式-2

式-3

ここに、φρwvSwngはそれぞれ間隙水圧、間隙水の密度、平均流速、飽和度、地盤の空隙率、重力加速度です。また、Kbは空隙弾性定数、kは地盤の透水係数、αは飽和領域で1、不飽和領域で0となる係数であり、Tは地盤の温度、ξは水の体積膨張係数です。


温度変化をもたらす熱の移動に関する支配方程式は、次のとおりです。


式-4

式-5

ここに、qは熱伝導による熱流束、Cvは地盤の単位体積あたりの熱容量(体積熱容量)、Cvwは間隙水の単位体積あたりの熱容量、λは熱伝導率です。ただし、地盤と間隙水の温度は常に同じであると仮定します。


また、地盤ではいわゆる有効応力則にしたがって変形が生ずると考えます。


式-6

式-7

ここに、σmは平均応力、Kdは排水条件で計測された地盤の体積弾性定数、εviは非弾性体積ひずみ、ηは地盤の熱膨張率です。


これら支配方程式の離散化手法と解き方は、これまで説明してきたものと大きな違いはありません。まず、既知の値を用いて温度を求め、


式-8

動的陽解法も組み合わせ、間隙水圧や応力・ひずみの変化を求めます。


式-9

式-10

式-11

ここに、{q}、{θ}、{v}は節点での熱流束、温度勾配、間隙水の平均流速であり、それぞれ節点を取り囲む要素の温度勾配や間隙水圧の勾配より求められます。また、[B]は勾配マトリクスです。ρw,nodは節点での密度であり、節点を囲む要素の値を要素体積の重みを付けて平均した値とします。


式-12

なお、間隙水の密度はKwξが一定と近似して次のようにして求めることとします。


式-13

ここに、ρw0φ0T0は、それぞれt=0のときの間隙水の密度、間隙水圧、温度です。


支配方程式と解法についてはこれぐらいにして、ちょっと面白い解析例をご覧にいれます。解析モデルは、図-1に示した矩形の領域を対象としたものです。用いた物性値は、表-1にまとめて示します。


図-1 解析モデル
図-1 解析モデル

表-1 解析に用いた物性値一覧
物 性 単位
E ヤング率 160 MPa
ν ポアソン比 0.3
γ 単位体積重量 15 kN/m3
n 空隙率 0.2
k 透水係数 1.0×10-6 m2/MPa・s
β 平均応力・間隙水圧比 0.8
λ 熱伝導率 1.0 J/(m・s・℃)
Cv 体積熱容量 3.0×106 J/(m3・℃)
Cvw 水の体積熱容量 4.2×106 J/(m3・℃)
η 熱体積膨張率 0
ξ 水の熱体積膨張率 1×10-4

現実ではなかなか起こり得ませんが、このモデルの左辺の温度を上げ、右辺の温度を下げてみます。このとき、モデル外への水の流出は禁止します。温度変化により、動画-1に示したように左辺から右辺への温度勾配がついていきます。左辺側では温度上昇に伴う水の体積膨張によって間隙水圧は増加し、右辺側はこれと逆の効果で間隙水圧は減少します(動画-2)。これと同時に、左辺側では温度上昇に伴う水の密度減少により軽くなった効果で上昇流が発生します。右辺側では逆に下降流となります。その結果、時間の経過とともに、水の流れはモデル中を循環するようになります。このときの間隙水圧の初期値からの増分を示したものが、動画-3です。間隙水圧増分は、右上と左下で高く右下と左上で低い、特徴的な分布となっていきます。変形も動画-4に示すとおり、モデル内でよじれた形となっていきます。とても特徴的な現象です。


次回は、変形・地下水・熱の連成問題に凍結の影響を考慮する方法をご紹介する予定です。


動画-1 温度分布の推移(赤:温度高)

動画-2 水流速分布の推移

動画-3 間隙水圧増分の推移(赤:間隙水圧大)

動画-4 変形の推移