コラム

密度流の陽解法

陽解法のすすめ/第7回担当:里 優(2016.7)


前回は、地下水流れによって物質が運搬されながら拡散する問題に陽解法を適用してみました。今回は、運搬される物質の濃度変化により地下水の密度が変化する、いわゆる密度流の解析をご紹介します。この場合は、濃度の変化が地下水流れに影響を及ぼすことから、地下水流れと物質移行を同時に解く必要があります。このような問題でも、陽解法で解けるのでしょうか。


まず、例によって密度流の支配方程式を示します。長くなりますので、詳細は「密度流に関する支配方程式と陽解法」をご覧ください。


以下に示す式は、地下水流れの支配方程式です。


式-1

式-2

式-3

ここに、φρwvSwngはそれぞれ間隙水圧、間隙水の密度、平均流速、飽和度、地盤の空隙率、重力加速度です。また、Kbは空隙弾性定数、kは地盤の透水係数、cは間隙水中の物質の濃度、ρwfは物質の濃度が0のときの間隙水の密度、χは濃度の増加に対する密度の増加を定める係数です。


式(1)には濃度の項が入っていますが、単位時間に単位体積中で生じた間隙水の流入出量の差に、濃度変化に伴う間隙水の密度変化が寄与していることを表しています。 他方、物質移行の支配方程式は次のようになります。

式-4

式-5

式-6

vcは分散と拡散による物質の移動速度(流束)、vwは間隙中の水の速度、Dは拡散係数です。

これを、これまで説明したとおり離散化し、次の順序で計算していきます。まず、節点を取り囲む要素の既知の間隙水圧から節点での流速を求めます。


式-7

ここに、Fetは間隙水圧の勾配から求まる等価節点流速(重みの付いた流速)、Fstは境界面の水圧と等価な節点流速、Wは重みです。また、tは現在の時刻を表しており、後に示す時間差分では既知量として取り扱うことを示しています。


次に、既知の濃度より節点での物質の流束と濃度勾配を求めます。


式-8

式-9

ここに、Cetは濃度勾配から求まる物質の等価節点流束、Cstは境界面の濃度と等価な物質の節点流束、ωtは節点での濃度勾配です。


これらより、要素の濃度の更新値が求まります。


式-10

ここに、[B]は勾配マトリクス、(nSwρw)nodは節点での値であり、節点を囲む要素の値を要素体積の重みを付けて平均した値とします。


式-11

濃度が求まれば、次の時間の間隙水圧を求めることができます。


式-12

複雑な手順のように見えますが、要素毎の計算により節点値を積算し、節点値より要素の値を更新していくことの繰り返しです。連立方程式を解くことはありません。


計算例をご紹介します。最初のものは前回用いたものと同じモデルで、濃度の増加に対する密度の増加を定める係数χを0.2としています。


図-1 解析モデル
図-1 解析モデル

表-1 解析に用いた物性値一覧
物 性 単位
αL 縦分散長 1.0 m
αT 横分散長 0.1 m
Dm 分子拡散係数 1.0×10-6 m2/s
τ 屈曲率 1.0
k 透水係数 0.1 m2/MPa・s
n 空隙率 0.1
χ 密度増加率 0.2

結果は動画でご覧ください。濃度の増加により水の密度が増すために下向きの流れが発生し、これに伴って物質の移行範囲も下よりとなっていきます。このように、地下水流れと物質の移行がお互いに影響し合っていることがわかります。


動画-1 濃度分布の推移(赤:濃度大)

動画-2 地下水流速分布の推移

二つ目の解析例は、Elder問題と呼ばれるものです。図-2に示すようなモデルで、物性が次の条件を満たすように設定した場合に発生する、特徴的な物質移行の様子を再現するものです。


式-13

ここに、RaはRayleigh数と呼ばれる無次元数、Hはモデルの高さ、Δcはモデル上辺での濃度の増加分で、この解析例では1としています。また、αLαTはともに0とし、Kbには大きな値を入れて式(1)の右辺第2項が無視できるようにしています。


図-2 解析モデル
図-2 解析モデル

解析結果は動画でご覧ください。モデル上辺の濃度の高い部分から何本かの足が生えるような濃度変化が生じます。とても印象的な解析結果です。


次回は、いよいよ変形と地下水流れの連成解析を陽解法で解いてみます。


動画-3 Elder問題の解析結果(濃度分布の変化 赤:濃度大)

動画-4 Elder問題の解析結果(地下水流速分布の変化)