
流線追跡法による豪雨時の影響評価
近年では、過去に例を見ないような豪雨に見舞われることが多くなり、道路の冠水や家屋の浸水のみならず、堤防の決壊や斜面崩壊、土石流などが頻発しています。豪雨時におけるこのような被害を最小に止めるために、豪雨の影響が大きな場所を抽出して、事前に何らかの措置を取っておくことが望まれます。地盤に関しては、豪雨時の影響を大きく受ける場所のひとつとして、雨水が集まりやすい場所を挙げることができます。このような場所では、雨水流量の増加により表層の侵食や地下水位の上昇が生じ、斜面の表層崩壊や土石流を招く原因となることは想像に難くありません。
現在では、航空レーザ計測などによって詳細な数値標高モデル(Digital Elevetion Model,以下DEM)が得られ、GISなどを用いて集水面積解析を行うことで、雨水が集まりやすい場所を抽出することができます。ただし、この方法では河川などの大規模な流路のみが強調され、斜面などへの影響度合いを視覚的に把握することはできません。また、最大流量となるまでの時間などを知りたい場合は、別途地表流の計算が必要となり、多くの時間や費用が必要となります。
これらを解決するために、DEM上に雨滴を配置し、地形に沿って流下する雨滴の流線を描き、雨滴の流路を積極的に可視化する方法を考案しました。この方法では、DEMで表現された地形データの上に、雨水に相当する仮想的な点(雨滴)を置き、これが地表面の最大傾斜方向に運動すると定義して流線を描きます。この流線の離散集合より、雨水の流れや集水の特徴を評価しようと考えたわけです。
この流線追跡解析では、最初にDEMに基づいて作成された地形データ上に雨滴を配置します(図-1)。雨滴は、マニング式で表される流速で最大傾斜方向に流動していくこととし、微小時間Δtづつ雨滴を動かし到達点を計算します。これを繰り返すことで、雨滴の流線を描いていきます。マニング式は、式(1)のとおりです。

ここに、vは流速、aは流路の特徴を表す定数、Iは動水勾配、nは粗度係数です。
動水勾配には、DEMの各グリッドから求められる最大傾斜度を用いることとしました。最大傾斜度を求めるに際しては、グリッドを二つの三角形に分割し(図-2)、三角形内は平面で最大傾斜度は一定としました。三角形の分割では、分割線がグリッド内の尾根や谷となる方向になる分割を選択することで、グリッドが表現している面の特徴を保つように処理を行いました。

図-1 流線追跡解析の概念 図-2 時間差分計算による流線の追跡
雨滴は、DEMのグリッドとは別に設定した等間隔メッシュの中点に配置することとしました(図-3)。この位置から計算を開始し、最大傾斜が0に近くなるか解析対象領域の端に到達した時点で計算を終了します。このような処理により求められる流線は、図-4に示すとおり等高線と直行する方向に進んでいきます。これらを配置された全ての雨滴について計算することで、雨水の流れが視覚的に表現されます。
雨滴が1メッシュ分の面積に降った単位時間の雨量を代表していると考えれば、流線1本はこの雨量を持っていることとなり、任意の1メッシュ内を通過する流線の本数をカウントすれば、このメッシュ内を単位時間に通過する雨水の流量を表すこととなります。また、任意のメッシュを通過する各流線については、メッシュに到達するまでの相対的な時間を求めることができます。注目しているメッシュに最も遅く到達した流線の到達までの時間は、最大流量となるまでの時間を表しており、雨水の到達が早いか遅いかを表す指標となります。

図-3 等間隔での雨滴の配置と流線 図-4 コンター線と直交する流線
1km×1.2kmの50mグリッドのDEMを用い、流線追跡解析を行った結果を図-5と図-6に示します。等間隔メッシュの幅は20mです。図には、各メッシュを通過した流線の本数に関する線コンターも描いてあります。図からは、DEMで表現された地形における雨水の流況を、明瞭に読み取ることができることがわかります。なお、この例では流路の特徴を表す係数aや粗度係数nは1とし、地下への浸透や蒸発散などは考慮していません。したがって、求められる流量や到達時間それ自体には意味がないものの、集水の度合いや最大流量となるまでの時間などを相対的に比較することは可能となります。
逆に、流路の特徴を表す係数aや粗度係数nを適切に定め、地下への浸透や蒸発散を考慮することができれば、流路における最大時間流量や、これに達するまでの時間を概算することができます。各流線上での地下への浸透量からは、地盤の水分量の増加を推定することもできます。これに基づいて、表層崩壊しやすい場所のスクリーニングができると考えます。また、各流線上で流速に対応した侵食量や堆積量を求めてやることで、地形改変の度合いや土石流の発生を評価できる可能性もあります。
この流線追跡解析は、Geo-Graphiaに流水解析機能として装備されています。是非、豪雨時のリスク評価などにお役立てください。

図-5 流線追跡解析結果の一例(1)

図-6 流線追跡解析結果の一例(2)