
無線機の動きを3次元で捉える電波位相差変位計測
地盤や岩盤の3次元的な変形を計測する手法として、最も知られているのはGPSでしょう。斜面などにGPSアンテナを設置し、この座標を衛星との通信をもとに割り出します。計測精度は、フィルタリング技術を駆使することで数mmまで高まるとの報告もあります。ただし、精度の高い計測を行うためには、ばらつきを平均化するため一定の時間待つことが必要です。
では、衛星の電波が捉えにくい場所や、急速に変位する場所で3次元変形を計測するにはどうすればよいでしょうか。
この問題を解決する手法が、電波位相差変位計測です。この技術は、三菱電機株式会社により開発されました。地層科学研究所では、早くからこの技術を導入し実用化に向けて技術開発を行ってきました。本技術開発は、平成23年度~平成25年度にわたり、国土交通省より建設技術研究開発助成制度の対象に選ばれました。
今回は、この電波位相差変位計測技術をご紹介します。この技術は、図-1に示すように、例えば斜面に設置した電池駆動で小型の無線発信機からの電波を、複数の受信機で受けて、このときの電波の位相差から発信機の位置や変位を測定しようとするものです。mmの精度で3次元の変位成分を、リアルタイムに計測できるといった特徴があります。

図-1 電波位相差変位計測の概念
計測の原理は、次のようなものです。発信機からの電波を二つの受信機で受けると、発信機と受信機の距離の違いから、二つの受信機で受けた電波には位相差が検出されます。逆に、得られた電波の位相差からは、発信機の位置が図-2に示すお椀型の等位相差面上のどこかにあることがわかります。別の二つの発信機の組、さらにもう二つの発信機の組で、同様に等位相差面が描けますが、この三つの等位相差面の交点として発信機の位置が特定できます。

図-2 等位相差面と発信機の位置の特定
本技術では2.45GHzの無線を用いていますが、その波長は12.2cmです。計測システムでは位相差を1度単位で読み取れますので、理論的な計測分解能は0.34mmとなります。ただし、実際の計測では様々なノイズがあり、S/N比や受信機の配置にもよりますが、数mmの精度となります(図-3)。

図-3 電波位相差変位計測の精度
この精度を実証するために、500mほど離れた川の対岸に発信機と複数の受信機を設置し、発信機の位置を強制的にずらして、この変位が計測できるかを試しました。結果は図-4に示すとおりで、ノイズはありますがmmの精度で変形が計測できることがわかりました。

図-4 電波位相差変位計測の精度検証(黄線:強制変位、青線:計測値
電波位相差変位計測の精度は、受信機の配置に依存します。図-2に示したように、等位相差面の交点が求めやすい配置が望ましく、これはDOPと呼ばれる計測精度を表す指標が最も低い配置を選ぶことで実現できます。そこで、計測機器を現場に設置する前に、机上で最適な配置を検討できるシミュレータを作成しました。これには、3次元統合可視化ソフトGeo-Graphiaを利用し、3次元地形図に発信機や受信機を仮想的に配置してDOPを求め、試行錯誤によりDOPが低い配置を探れるようにしました。

電波位相差変位計測では、必要であれば数秒間隔での計測も可能です。斜面やダムの変形モニタリングなどに是非ご活用ください。