
トンネルのレーザスキャニング
レーザスキャニングにより3次元の座標点群データを得て、地形や建物の形状を計測する技術が、ここ10年ほどで大きく発展しています。当初は航空機からのスキャニングが主でしたが、近年は車や船舶あるいはUAVなどの移動体から気軽にスキャニングができるようになってきました。地層科学研究所でも、業務協力を行っている数社とともに、レーザスキャニングをお引き受けしています。
この技術をトンネルの点検に応用する試みが始まっており、壁面の観察結果などと併せてトンネルの健全性を評価する方法が検討されています。計測車と計測結果の一例を図-1に示します。

図-1 レーザスキャニング用の計測車と計測結果の一例
レーザスキャニングによる計測では、トンネルの断面形状を求めることができ、設計断面や標準断面の形状に比べてどの程度ゆがんでいるかがわかります。しかし、このゆがみが竣工当時からあるものなのか、あるいは時間とともに生じてきたのかについては、もう一度計測を行って最初の計測結果との差を求め、これに基づき判断する必要があります。しかし、計測で得られた点群どうしを比較しても、2回とも同じ場所にレーザが照射され座標が得られるわけではなく、差をとることができません。また、仮に同じ点で座標値が得られたとしても、これにはレーザ計測のばらつきや誤差も含まれています。では、どうやって2回の計測結果の差を求めればよいのでしょうか。
これには、2回分の計測結果に同じメッシュ(格子)をかぶせ、メッシュ交点上の点の座標をできるだけ正確に求めて、メッシュ交点上で差をとる方法を考案しました。
まず、1回目の計測結果で得られた点群データについて適当な座標軸を仮定し、一定の間隔で仮断面を作成します。この断面と点群との交点をサーチし、断面の仮中心点を求めます。この仮中心点を連ねて仮中心軸を定め、これと直行する断面を求めて、これをトンネル軸方向のメッシュ分割とします(図-2)。

図-2 トンネル軸方向の分割方法
次に、各断面の隣の断面までの範囲にある点群について、一定の角度の範囲内で、かつ仮中心軸からの距離が一定の範囲にある点群を抽出します(図-3)。これらの座標の平均値をもとめ、この範囲における代表点の座標とします。これを断面内で一定角度ごとに繰り返し、断面内の代表点群を求めます。この処理により、レーザ計測のばらつきは平滑化されます。

図-3 断面内の代表点の算定
続いて、各断面について代表点の座標を最もよく近似する円を最小二乗法により求めます。得られた円の中心を、各断面の最終的な中心点として確定します。この中心点から一定角度で断面を区切っていき、断面内のメッシュとします。これと、先に区切ったトンネル軸方向の断面分割と併せ、トンネルのメッシュ分割を完成させます。

図-4 断面中心の確定とトンネルのメッシュ分割
1回目の計測で得られた点群データから、図-3と同様の方法でメッシュの交点における座標の平均値を求め、メッシュ上の座標値とします。これを、設計断面や標準断面と比較すればゆがみの大きさを求めることができます。2回目の計測で新たに点群データが得られた場合には、1回目と同じメッシュを用い、各断面で中心点を一致させたうえでメッシュ上の座標値を求めます。これで、同じ場所(メッシュの交点)で1回目と2回目の差を求めることができるようになりました。
このようにして2回の計測の差を求めた例を、図-5に示します。各回での計測結果は、標準断面との差分を示しています。この計測は試験的に行ったもので、2回は同じ日に計測しています。したがって差はほとんどないはずですが、結果も2回で差がないことを示しており、本手法の妥当性が示されています。

図-5 2回の計測結果の差を求めた例(単位:m)
地層科学研究所では、レーザスキャニングによりトンネルの変形が明らかとなった場合などに、この原因を検討するための3次元数値解析もお引き受けしています。是非ご活用ください。