
大出力レーザによる岩盤の掘削
地層科学研究所が参加した研究開発の中で、最も印象深いものは、大出力レーザによる岩盤掘削の試みです。2000年前後に、当時の北海道開発局開発土木研究所(現在は、国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所)が主導して行った研究開発で、論文も発表されています1)2)。
当時は、北海道の豊浜トンネルで大規模な岩盤崩落が発生し、20名もの尊い人命が失われたことから、再発を防ぐためにオーバーハングした岩盤斜面の切り取りが行われていました。切り取りを行う際に、ドリルを使って穿孔し発破で破砕する方法では、穿孔を岩盤の上に乗って行う必要があることや、穿孔による振動で岩盤に予期せぬ崩落が発生する危険もありました。そこで、振動がなく反力が不要で、また離れた場所から穿孔ができる可能性のあるレーザに着目し、これを岩盤の穿孔に適用するための研究が行われました。
岩石にレーザをデフォーカス(焦点を結ばせないで平行光に近い形)で照射すると、泥岩では含まれている水分が一気に気化する衝撃で穴が開くことや、凝灰岩では溶融が見られ、石灰岩では熱応力による破砕が見られることがわかりました。これらのことから、大出力レーザを岩盤に照射することで、熱的作用により穿孔が可能であると判断されました(図-1)。

図-1 レーザを照射した岩石試料(左:泥岩、中:凝灰岩、右:石灰岩)
その後、豊浜トンネルで崩落したものと同じ凝灰岩に対して、大出力レーザの照射実験が行われ、実際に穿孔が可能であることが確認されました(図-2)。また、ファイバー伝送が可能なレーザを用い、屋外での照射実験や現場の岩盤に対しての照射・穿孔実験が、公開で実施されました(図-3、図-4)。

図-2 室内でのレーザ照射実験

図-3 屋外での公開レーザ照射実験

図-4 実岩盤に対する公開レーザ照射実験
そこで問題となったのは、レーザ照射によって発生する溶融ドロス(岩石の溶融物)です。これが発生すると、レーザによって発生する熱が専ら溶融物の気化に使われることや、溶融物が邪魔をしてレーザが新鮮な岩盤部に当たらなくなるために、長時間照射しても穿孔深さが頭打ちとなります(図-5)。

図-5 レーザ照射によって発生する溶融ドロス(左)および照射時間と穿孔深さ(右)
では、どうすればレーザ照射で深い穿孔が可能となるのでしょうか。
一つのアイデアを示します。筆者は、過去に花崗岩にレーザとドリルで穴をあけたことがあります。ドリル単体では花崗岩に刃が立たず、穴をあけることはできません。まず、レーザを溶融が発生しない程度に短い時間岩石に照射します。レーザが照射された部分では、熱応力が発生して岩石が破砕されています。これをドリルで取り除きます。破砕されているために、少しの時間で簡単に取り除くことができます。これにより露出した新鮮な岩石表面部にレーザを短い時間照射し、破砕部をドリルで取り除くことを繰り返すことで、どれだけでも穿孔を進めることができました。レーザの照射による破砕をわずかにドリルでアシストすることで、レーザの無振動、無反力などの特長を残しつつ、深い穿孔が可能となるわけです。岩盤への穿孔だけでなく、例えば、振動を与えたくないデパートや病院の補強工事などにも適用できるかもしれません。最後に、レーザドリルのイメージを示します。左右二つのドリルを合体させ、高速に交互に動作するシステムが開発されることを期待します。

図-6 レーザドリルの概念(二つを合体させたシステムを開発)
1) 池田他:レーザーによる岩盤斜面の切り取り技術の開発,第30回岩盤力学シンポジウム,2000.
2) 池田他:レーザと放電衝撃破砕を用いた実岩盤の制御破砕実験,第56回土木学会年次学術講演会,2001.