
有限差分法コードFLAC 第15回 ~現場への適用例~
今回は,FLACを「地震により斜面が地すべり崩壊した現場」に適用した事例を紹介させて頂きます.
2008年6月14日に発生した岩手県奥州市を震源とするマグニチュード7.2の地震により,荒砥沢ダムのダム湖上流域で地すべりが発生したことはよく知られています.その規模は,斜面長さ1300m,幅900mと大規模で,移動距離は300mに達しています.
今回紹介する事例は,各種の数値解析法により「地震による地すべり土塊の大規模な移動や変形に対して、再現性のある数値解析法を検討する」という業務の一環として,有限差分法コードFLACを用いて2次元断面解析を実施しました.
業務の実施に先立ち,著者はお客様に同行して現場を踏査しました.飲料水の補給もままならない8月の炎天下の中、道無き道を終日フラフラになって歩きました.苦労話はさておき,著者が撮影しました写真を以下よりご覧ください.

写真1:移動土塊の全景

写真2:道路の寸断

写真3:道路の寸断

写真4:移動土塊の内部

写真5:移動土塊の内部

写真6:移動土塊の内部

写真7:滑落崖付近
写真2,3は,地震発生当時,テレビのニュースなどで頻繁に報道されていたショットです.写真1や, 写真4,5,6からは大規模な地すべり土塊がすさまじい勢いで移動した様子が伺えます.また,地すべり土塊は概ね剛体的に移動して岩盤すべりの様相を呈し,すべり面が鮮明に見られます.


図-1 平面図・断面図(D測線)
さて,モデル化の対象としました図-1の平面図(断面位置を表示)と断面図をご覧ください.滑落崖が大きく陥没している状況,すべり面が極めて平坦である状況,地すべり土塊の末端部が乗り上げている状況が伺えます.数値解析を用いまして,これらの現象を良好に再現することが著者に与えられた使命でした.ここで重要なことは,「地すべり現象とは,既知のすべり面上を地すべり土塊が分離運動する現象」であるため,適用する数値解析法でもこの現象を再現できることです。そこでFLACの登場となります. 解析に使用したモデルを図-2に示します.赤線は,すべりや剥離を表現できるインターフェース要素が定義されている位置です.

図-2 解析モデル概要図
FLACでは以下の現象を再現できます。
- すべり面をモデル化する不連続要素がすべり運動中に接触判定を行えること
- 節点座標が時々刻々と移動する大変形解析ができる(地すべり土塊の分離運動を表現)
この業務では,移動層の変形や移動の再現に主眼を置きましたので,動的解析ではなく,静的震度を与えた疑似静的解析を実施しました.与える外荷重は,鉛直方向の重力と水平方向の静的地震力です.
結果はアニメーションでご覧ください.緑色の太線は被災前の地形,黒色の太線は被災後の地形です.被災前の地形から最終的には被災後の地形にうまく合致させることができました.また,滑落崖の陥没や地すべり土塊の末端部での乗り上げが良好に再現されている状況がお分かりになると思います.

機会がありましたら,地震動を入力して動的解析を実施してみたいと思っております.
1) 山科真一,山崎 勉,橋本 純(2009):岩手・宮城内陸地震で発生した荒砥沢地すべり,
地すべり, 第45巻,第5号, pp.42-47.
2) 中川光雄,山田正雄(2008):大変位解析による地すべりシミュレーションの適用性,
地すべり, 第44巻,第6号, pp.39-46.