コラム

有限差分法コードFLAC 第14回 ~三次元の現場は最初から三次元でそのまま扱う(続々々編)~

数値解析/有限差分法編/第14回担当:中川光雄(2009.01)


前回は,計算速度を向上させる技術であるマルチスレッドというものが, FLAC3Dの四面体要素ではどのように実現されているかをご説明させて頂きました.今回と次回では,この技術を実際現場に適用した事例ご紹介させて頂きます.


今回の内容は,既にこのシリーズの12回で述べました四面体要素,13回で述べましたマルチスレッドの技術が山間地における広域的な斜面崩壊危険度予測のための3次元動的解析に如何に必要であるかという論点から,改めてご説明するものです.


山体をそのまま広域にモデル化して地山の材料非線形性を考慮する三次元地震応答解析が試みられるようになってきました.広域の崩壊危険度予測の観点から,解析領域としては数km四方の山全体を一括してモデル化することが望ましく,これは防災における社会的要請でもあると思われます.同時に,崩壊危険箇所を精度よく抽出する観点から山体の比高,幅,非対称性などの微地形,さらには,地質調査に基づく崩積土層厚などを適切に表現できる要素分割を実現することも重要であると考えます.


解析モデルが必然的に大規模となるこのような数値解析に対しては,64ビットパソコンが安価でかつ性能が飛躍的に向上している今日,節点数・要素数の限界がPCのメモリ容量のみに依存する本手法の有効性が期待されます.


しかし,FEMでは連立一次方程式の計算処理が必要なため大規模モデル(ここでは,100万節点以上1000節点程度と定義しましょう)の取り扱いは不可能だと思われます.さらに,材料非線形性に起因した解の収束が困難となる場合もあります.FLAC3Dは,陽解法で定式化されているいため連立一次方程式の解法処理が不要です.


因って,節点数・要素数が解析手法に起因して制約を受けることはありません.また,塑性流動が発生・拡大しても安定してシミュレートすることができます.故に,FLAC3Dは塑性による変形運動が持続して発生する,いわゆる斜面の崩壊現象を表現できる解析手法であると言えます.


さて,山地における崩積土や弱風化層の層厚は,山頂付近,山麓,谷底部など場所によりかなりの差が見られる場合があります.特に,図-1に示しますように,崩積土層や弱風化層の位置的な層厚変化が顕著な場合,崩積土層や弱風化層のモデル化に六面体要素を使うことは困難となります.このような場合,図-2に示します四面体要素でモデル化することになります.


図-1 地質断面
図-1 地質断面

また,図-1にはありませんが,1つの層が上下の層とどこまで行っても平行のままということは少なく,どこかで閉じてレンズ状として存在する場合が見受けられます.このような閉じた空間内に,使い慣れた六面体要素(図-2)を発生させることは要素の形がかなり歪になったり,場合によっては幾何学的に生成できないなどの理由で一般的には困難とされています.


図-2 要素タイプ
図-2 要素タイプ

FLAC3Dでは両要素タイプの塑性崩壊荷重が同精度で得られることが,本シリーズの第12回でご説明しています.弾塑性解析にFEMでは避ける傾向にある四面体要素を適用することは何ら問題ありません.


次回は,具体的な事例の解析条件と解析結果をご紹介させて頂きます.




参考文献
1) 中川光雄,山田正雄,小山 幸司:広域山体危険度予測のための有限差分法による地応答解析,第62回年次学術講演会概要集, 2007.