
有限差分法コードFLAC 第13回 ~三次元の現場は最初から三次元でそのまま扱う(続々編)~
前回は,斜面防災業務において山岳など複雑な地層構造にメッシュを発生させる場合,四面体要素の適用は欠かせない技術であることを述べました.そして,弾塑性解析での解の精度は六面体要素を適用した場合と何ら変わりないことも述べました.
さて,斜面防災や地下掘削などの数値解析業務をやっておりますと,やはり解析モデルの規模(節点数や要素数)が大きくなります.場合によっては数百万のオーダーになることも珍しくはなく,これは四面体要素を適用した場合も事情は同じです.いくらOSを64ビット化してパソコンに搭載したメモリをほぼその大きさ使うことが可能であるといっても,解析モデルの規模が大きくなれば,当然のことながら計算時間も長くなります.
そこで,少しでも計算速度を向上させるために,四面体要素に対してもマルチスレッドという技術があると助かります.マルチスレッドとは,複数のCPU(というよりコア)が備わっているパソコンでは,全てのコアを同時に使用して計算を並列処理させる技術です.マルチスレッドの詳細は第11回をご覧ください.
ある地すべり解析(四面体要素400万)を対象として,自重解析に要した計算時間をCPUのコアの使用数を変えて比較してみました.16GBのメモリを搭載したOS64ビットパソコンFLAC3D専用機を使用しました.表-1をご覧ください.

1つのコアのみを使用して計算させた場合は46時間55分かかりましたが,2つのコアを同時使用すると計算時間は38時間39分と速度が約1.2倍になります.ここで,第11回をご覧頂いた読者の皆さんはお気づきと思いますが,六面体要素を適用した場合の同じ条件では速度が1.8倍になると述べていました.マルチスレッドを可能にするにはソースプログラムをマルチスレッドとなるように書き直すことになるのですが,四面体要素のロジックに基づけば現状ではこれが限界のようです.しかし,8つのコアを同時使用すると計算時間は28時間45分と速度を約1.6倍まで向上させることは可能です.
このように,シミュレーション技術の進化は,ハード(パソコン)技術の進化と一体となっていることがお分かりかと思います.弊社では現在,海外の鉱山会社からお受けしている鉱柱採掘の安定性を検討する解析(六面体要素900万)に対して,32GBメモリを搭載したパソコンに加えて64GBメモリを搭載したパソコンを投入いたしました.これにより,多くの採掘検討ケース数をより効率的に実施することができるようになっています.
三次元の現場は最初から三次元でそのまま扱うことを支える要素技術がかなりのところまで進化していることをお分かり頂けたと思います. なお,四面体要素に対するマルチスレッドはFLAC3Dの現行バージョンには同載されていません.次回は,これらの技術を応用した事例を紹介させて頂きます.
1) Detournay, C., and E. Dzik. (2006) :Nodal Mixed Discretization for Tetrahedral Elements,in Numerical Modeling in Geomechanics -- 2006 (CD Proceedings of the 4th International Symposium, Madrid, May 2006). Paper No. 07-02, R. Hart and P. Varona, Eds. Minneapolis, Minnesota: Itasca Consulting Group, Inc.