
有限差分法コードFLAC 第12回 ~三次元の現場は最初から三次元でそのまま扱う(続編)~
前回は,三次元の現場は最初から三次元でそのまま扱うことを支える技術について述べました.地盤内の地質構造を忠実にモデル化する場合などに不可欠な四面体要素も、斜面防災業務に欠かせない技術です.
今回は,このテーマに関してご紹介させて頂きます.
四面体要素がどうしても欲しくなる典型的な例として,山を丸ごとモデル化する問題を挙げます.図-1をご覧ください.この図は,山岳のある箇所での縦断面を表します.手前や奥行きも断面を描くとほぼこのようになるとご想像ください.崩積土層の層厚変化がかなり顕著であることにお気づきかと思います.

図-1 地質断面
また,図-1にはありませんが,1つの層が上下の層とどこまで行っても平行のままということは少なく,どこかで閉じてレンズ状として存在する場合が見受けられます.このような閉じた空間内に,使い慣れた六面体要素(図-2)を発生させることは要素の形がかなり歪になったり,場合によっては幾何学的に生成できないなどの理由で一般的には困難とされています.

図-2 要素タイプ
(我々の業界ではですが)絶対に無理とは申しませんが,歳月を費やして手作業で作成する覚悟がおありでしたら可能かもしれません.こんな場合著者は,迷わず四面体要素(図-2)でモデル化してしまいます.
しかし,四面体要素はあまり好きではないという読者もおられるかと思います.六面体要素に比べて見栄えがあまりよくないということのようですが,そればかりではなく,四面体要素を使用すると,弾塑性解析では収束性がかなり悪くなったという話や非定常浸透流解析などでは途端に収束性しなくなったとの話も聞き及びます.しかしこれらは全て有限要素法(FEM)での話だろうと思います.どうやら有限要素法(FEM)では四面体要素を避ける傾向にあるようです.
では「FLAC3Dはどうなんだ!」ということになりますが,一番気にする必要があるのは,弾塑性解析を実施した場合の解の精度です.
六面体要素に対しては,このシリーズの第2回で支持力問題での理論解との比較,トンネル問題での理論解との比較はシリーズの第4回でお見せしています.いずれも理論解と良好に一致した結果を得ております.
ではここで,支持力問題を再び取り上げて四面体要素による解析を新たに行い,結果を比較してみることにします.シリーズの第2回で詳しく述べていますが,1000個の六面体要素で作成したモデル地盤(図-3(a))にc=0.1MPaの粘着力を与えてa=3m、b=3mの矩形領域に荷重を与えて増加させていくと,図-4のようにFLAC3Dによって得られた支持力(赤色線)は,上限値qu(茶色波線)と下限値ql(緑色波線)の間に現れることが分かります.

図-3 解析モデル

図-4 支持力の比較
さらに,12000個の四面体要素で作成した同じ大きさのモデル地盤(図-3(b))に対しても同様の載荷を行うと,FLAC3Dによって得られた支持力(赤色線)は,六面体要素の場合と同様に上限値qu(茶色波線)と下限値ql(緑色波線)の間に現れることが分かります.
六面体要素,四面体要素共に支持力問題では理論解を再現できることが分ります.六面体要素による支持力に比べて四面体要素による方が27(kN)程度大きくなっています.要素数をもう少し増やせば六面体要素の支持力に接近するのではと思います.
最後に,解析モデルの全てが四面体要素で作成されている事例(図-5)をご覧ください.山間地での最大加速度分布を得て崩壊危険度予測を行うことを目的として,水平1.2km×1.1km領域の山体に対してモデル底面に地震動を載荷しました.解析結果として,地表付近の加速度は入力地震動の3~5倍程度増幅されていることや,山頂や急崖付近ですべり発生の兆候が伺える結果が得られました.


図-5 地表付近の応答加速度の時刻歴中の最大値
次回も,四面体要素の話題として,四面体要素のマルチスレッドに関してご紹介させて頂きます.
1) Detournay, C., and E. Dzik. (2006) :Nodal Mixed Discretization for Tetrahedral Elements,in Numerical Modeling in Geomechanics -- 2006 (CD Proceedings of the 4th International Symposium, Madrid, May 2006). Paper No. 07-02, R. Hart and P. Varona, Eds. Minneapolis, Minnesota: Itasca Consulting Group, Inc.
2) 中川 光雄,山田 正雄,小山 幸司:広域山体危険度予測のための有限差分法による地震応答解析,土木学会第62回年次学術講演会講演概要集,pp.23-24,2007.