コラム

連成解析への招待(地盤変形と間隙水の流れ)

第8回担当:里 優(2008.01)


前回までは、開発が急速に進んでいる新しい数値解析技術について述べてまいりましたが、今回からは少し趣を変えて、複数の現象を取り扱う数値解析をご紹介します。


連成解析と総称される技術ですが、熱伝導と熱膨張を取り扱った温度応力解析などはご存知の方も多いと思います。熱が伝わる現象と温度によってひずみが発生する現象を同時に解く技術です。また、圧密問題を解いた経験をお持ちの方は、地盤変形と間隙水の流れの二つの現象の相互作用を解析されたことになります。もし、圧密問題にさらに温度変化が加わったら、地盤にはどんな変化が生ずるのでしょうか。さらに、地盤が凍ってしまった場合はどうなるのでしょう。間隙水にガスが含まれていた場合、圧密現象はどうなるのでしょう。今回からは、このような複雑な問題を解く数値解析の世界へご招待いたします。


連成解析技術は、数学的な興味からではなく、実際の地盤で生じている現象を理解するために開発されてきました。典型的な例は、圧密問題に代表される、地盤変形と間隙水の流れに関する解析です。この解析手法は、降雨時の斜面の安定性の評価や地盤の液状化の解析などにも用いられており、地盤の解析では最も重要な解析手法の一つです。今回は、この問題を取り上げ、連成解析のおもしろさを感じていただきたいと思います。


まず、弾性的に挙動する地盤が間隙水で飽和しており、地盤を構成する土粒子の剛性は極めて高く、地盤の変形は構造骨格の変形によって決まると仮定します。この地盤に力を加えた際に生ずる現象は、図-1のように考えることができます。


図-1 圧密問題のモデル
図-1 圧密問題のモデル

地盤に瞬間的に力を加えた場合を考えると、最初は水の剛性が大きいために地盤はあまり変形せず、水が圧縮されることで間隙水圧が上昇します。この後、地盤の空隙から水が流出して行き、これに伴って地盤はゆっくりと沈下していきます。沈下の速度は、空隙からの水の流れやすさにより決まります。水が流出するために地盤が変形し、加えた力は徐々に地盤が負担することとなります。したがって、間隙水圧は減少していきます。


このような現象が地盤内の微小な領域で発生しているとして、様々な条件で問題を解いてみることにします。解析には、地層科学研究所で開発を進めているG-SUPRAを用いました。G-SUPRAは、変形・熱伝導・間隙流体(水やガス)の流れの相互作用を解くためのプログラムと、メッシュ作成や結果の可視化などのためのプリ・ポスト処理からなるソフトウェアです。支配方程式や離散化手法などの詳しい説明は省きますが、興味のある方は参考文献を参照ください。


最初の解析例は、図-1の問題を多次元へ拡張したものです。図-2では、地盤の一部分に荷重を加え、その後の変化を調べています。左側が載荷直後ですが、地盤のせん断変形は間隙水の影響を受けないために、地盤に変形が生じています。また、荷重を加えた付近では間隙水圧が上昇し、間隙水の流出が活発に生じます。その後、間隙水圧が消散しながら地盤沈下が進んでいきます。


>図-2 地盤の一部に荷重を加えた場合の圧密問題
図-2 地盤の一部に荷重を加えた場合の圧密問題

荷重を周期的に加えた場合の結果が、図-3と図-4に示してあります。周期的に荷重を加えた場合には、面白い現象を見ることができます。荷重が増加していっても、間隙水の排出には時間がかかるために、図-3に示すように地表面沈下は時間遅れを伴って生じます。一方、荷重が減少していく際には、排水による間隙水圧の減少と荷重減少による水圧減少が同時に生じ、荷重変化より間隙水圧変化が先に生じているように見えます。このような時間遅れや早まり度合いは、地盤の透水性に依存します。例えば、潮汐や気圧変化は地盤に荷重変化を発生させることから、間隙水圧変化と地表面沈下を計測しておき、潮汐や気圧変化と比較すれば地盤の透水性を推定することができそうです。


>図-3 周期的な荷重を加えた場合の地盤の挙動(1)
図-3 周期的な荷重を加えた場合の地盤の挙動(1)

>図-4 周期的な荷重を加えた場合の地盤の挙動(2)
図-4 周期的な荷重を加えた場合の地盤の挙動(2)

地盤変形と間隙水の流れに関する連成解析では、Mandel-Creyer効果と呼ばれる現象が有名です。これは、球状の地盤(例えば、砂団子のようなもの)を均等に圧縮した場合の現象で、図-5に解析結果を示しました。図は球の断面の1/4モデルであり、軸対象解析を行っています。荷重を加えると表面から排水が生じ、この部分の間隙水圧は減少していきますが、間隙水があまり動いていない球の中心部分では逆に間隙水圧が徐々に上昇していきます。これは、表面からの排水で表面部分が縮むように変形し、球が締め付けられるために中心部分が圧縮されることが原因です。この圧縮変形のために、中心部分では間隙水圧が上昇します。地盤の変形と間隙水の流れの相互作用の特徴を良く表している現象だと思います。


>図-5 Mandel-Creyer効果の例
図-5 Mandel-Creyer効果の例



参考文献
1) 里優,福井勝則,飯星茂:間隙水の移動を考慮した変形解析手法に関する一試案,資源・素材学会誌,vol.108,No.11,p.783-789,1992.