コラム

高温下岩石の透水特性

実験編/第25回担当:木下直人(2008.02)


地下空洞の利用に伴って周辺岩盤の温度が高温になるような施設の建設や地下資源開発のためには、高温・高圧下における岩石・岩盤の特性を把握する必要があります。今回は、高温下における岩石の透水特性について調べた例を紹介したいと思います。


土木分野では、透水特性を表す単位として、通常m/s(cm/s)で表される透水係数が用いられていますが、透水特性の温度依存性を調べる場合は固有浸透係数(固有透過係数、絶対浸透率)を用いる方が便利なので、ここでも固有浸透係数を用いることにします。固有浸透係数を表す単位としては、darcyとm2(cm2)とが用いられています。1darcyはほぼ10-12m2に相当しており、室温ではほぼ10-5m/sに相当しています。


高温下では、花崗岩質岩石を対象とした透水試験が最も多く実施されています。花崗岩の固有浸透係数と温度の関係の測定例を図-1に示します1)


図-1 花崗岩の固有浸透係数と温度の関係
図-1 花崗岩の固有浸透係数と温度の関係

図に示した測定例では、いずれも昇温時と降温時の両方について固有浸透係数と温度の関係が調べられています。Westerly花崗岩も稲田花崗岩も、昇温時における固有浸透係数は、50℃前後の温度で最小値を示しており、それ以上の温度では、温度上昇に伴って増大しています。有効拘束圧が小さい場合、固有浸透係数の増大は顕著であり、例えば、稲田花崗岩の場合、有効拘束圧30kgf/cm2(約3MPa)での試験では、300℃における固有浸透係数は常温におけるそれの約100倍になっています。昇温時と降温時の測定データを比較すると、拘束圧が小さい場合には、降温時の固有浸透係数の方が昇温時のそれよりも顕著に大きくなっています。両者の差は有効拘束圧が大きくなるにしたがって小さくなっており、稲田花崗岩について、拘束圧300kgf/cm2で試験を実施した場合には、昇温時と降温時の固有浸透係数はほぼ一致しており、温度履歴の影響はなくなっています。


図-2 深部高温岩体から採取した花崗閃緑岩コアの固有浸透係数と温度の関係
図-2 深部高温岩体から採取した花崗閃緑岩コアの固有浸透係数と温度の関係

図-2は、山形県肘折の深部高温岩体から採取されたコアを用いて、固有浸透係数と温度の関係を調べた例です2)。図中の数値は、コアの採取深度を示しています。試験時の有効拘束圧は29.4MPaです。図-1と同じ花崗岩質岩石(肘折花崗閃緑岩)を対象にしていますが、得られた結果は全く異なっていることがわかります。試験した6個の岩石の固有浸透係数は、約200℃まではいずれも温度上昇に伴って低下していますが、それ以上の温度になると、逆に温度上昇に伴って増加する傾向を示しています。


図-1と図-2から、花崗岩質岩石の場合、その固有浸透係数は、もともと岩石がおかれていた環境条件(温度・応力条件およびその履歴)の影響を大きく受けていると推測されます。稲田花崗岩やWesterly花崗岩は常温状態におかれていたのに対して、肘折のコア試料は高温岩体実験場から採取したものであり、もともと200℃以上の高温下にあったものです。後者の場合、固有浸透係数が最小値を示す温度は、もともとその岩石がおかれていた温度にほぼ対応しています。


図-3 砂岩の固有浸透係数と温度の関係
図-3 砂岩の固有浸透係数と温度の関係

図-3は、砂岩の固有浸透係数と温度の関係の測定例です3)。図-1に示した花崗岩質岩石とは異なり、温度上昇に伴って固有浸透係数は低下しています。ただし、花崗岩質岩石と比較すると、全体的に温度依存性はそれほど顕著ではありません。


このように、固有浸透係数と温度の関係が岩石の種類によって異なるのは、岩石の種類毎に固有浸透係数の温度依存性に対する影響因子が異なるためであると考えられます。例えば、花崗岩質岩石の透水性が温度依存性を示すのは、主として鉱物粒子間の熱膨張率の不一致により発生する微小クラックが、温度上昇に伴って増加するためであると考えられています。温度履歴の影響も熱カイザー効果によって説明することができます。


一方、温度上昇に伴って砂岩の固有浸透係数が低下する理由としては、岩石と熱水との相互作用の影響が考えられます。岩石と熱水との相互作用としては、岩石を構成する鉱物が熱水との相互作用により溶解したり析出沈殿したりする現象や、粘土鉱物の膨潤性が温度により変化する現象などが重要であり、その影響により岩石中の間隙構造が変化し、その結果岩石の透水性が変化すると考えられます。水の代わりに鉱油を用いた場合には、温度が上昇しても砂岩の固有浸透係数(常温における値で正規化)はほとんど変化しないという実験結果(図-4)4)からも、岩石と熱水との相互作用が高温下岩石の透水性に影響を及ぼしていることが推測されます。


図-4 Berea砂岩の固有浸透係数の温度依存性
図-4 Berea砂岩の固有浸透係数の温度依存性

岩石の透水係数の温度依存性を知りたい場合には、さらに水の粘性が温度に依存して変化します(水の粘性係数は、温度上昇に伴って急激に減少する)ので、その影響についても考慮する必要があります。


ここで紹介した試験例以外にも、今まで高温下岩石の透水試験は数多く実施されてきています。国内で実施された既往の試験データに関しては、一昨年、土木学会より刊行された、「熱環境下の地下岩盤施設の開発をめざして―熱物性と解析―」という書籍5)に収録され、データベース化されていますので、関心のある方はそれをご覧になってください。




参考文献
1) 斎藤 章,奥野哲夫:高温下における花こう岩質岩石の透水性に関する研究,土木学会第42回年次学術講演会講演概要集 第3部, pp.436-437, 1987.
2) 松永 烈, 木下直人, 小林秀男:肘折HDR坑井コアの高温高圧下での熱膨張及び透水性,資源・素材学会平成5年度研究・業績発表講演会講演要旨集,pp.235-236,1993.
3) 北野晃一, 新 孝一, 木下直人, 奥野哲夫:高温下岩石の力学特性,熱特性および透水特性に関する文献調査,応用地質,第29巻, 第3号, pp.242-253,1988.
4) Somerton, W. H. and Mathur, A. K. : Effects of temperature and stress on fluid flow and storage capacity of porous rocks, 17th Symposium on Rock Mechanics, Session 2A, pp.2A2-1-2A2-8, 1976.
5) 土木学会岩盤力学委員会岩盤の熱環境に関する研究小委員会編:熱環境下の地下岩盤施設の開発をめざして ―熱物性と解析―,丸善㈱,2006.