コラム

進化するDEM(個別要素法)

数値解析最前線/第7回担当:里 優(2008.01)


この数値解析最前線と名づけたシリーズでは、過去に格子ボルツマン法とDEMを組み合わせた手法や粒子法など、連続体の挙動を「つぶつぶ」の集合体で表現し、変形や流れを解析する手法を紹介しました。これらの進歩に取り残されたかのように見えるDEMですが、コンピュータパワーの増大とともに、その有効性が見直されてきているようです。


東京工業大学の青木研究室では、「つぶつぶ」の間に相互作用を仮定し、この集合体を岩塊と見なして落石のシミュレーションなどを行っています。青木研究室の森口さんにいただいた資料をご紹介しましょう。


図-1は、要素間の相互作用を考慮したDEMのイメージです。従来のDEMでは要素どうしが重なると反発力が発生し、パチンコ玉のように飛び散ることになりましたが、森口さんらが研究されている方法では、要素が離れようとすると引力を受け、引き戻されます。この結果、要素の集合体は、「つぶつぶ」で構成されているにもかかわらず、連続体のような挙動をします(図-2)。これが、ある程度の距離まで引き離されると、この相互作用は消失し、今度は接近すると反発力が働くようになります。これは、岩がくっついている状態と割れてしまった状態を表しており、分かりやすい概念です。


図-1と図-2
図-1 新しいDEMの概念        図-2 要素間の相互作用のモデル化

この方法では、粒子の重なり合いを気にすることなくモデルを作ることができます(図-3)。従来は図-3の左側のように、要素が接触している状態でモデルを作成する必要があり、複雑な形状を集合体で表現するには工夫が必要でした。この方法では、図-3の右側のように、重なることを気にせずモデルを作ることができ、これだけでも相当の労力を省くことができます。例えば、適切な多面体を作っておいて、その中に適当に粒子を発生させて充填してやれば、この多面体が固体となってしまいます。崩落した岩塊をモデル化するときなどは、とても便利そうです。


図-3 要素の集合体による固体のモデル化
図-3 要素の集合体による固体のモデル化

さて、このようにしてモデル化した岩塊は、運動方程式を解いてやることで動き出します。動き方は、集合体の形状によって異なりますし、柵をつくってやれば、これが破れる様子も表現できます。森口さんの行われたシミュレーションをご覧下さい。本物を見ているようですね。青木先生に以前にご紹介いただいたシミュレーションも、このようにして製作されたものです。もう一度、是非ご覧下さい。


mpeg:岩がネットを突き破る図 mpeg:岩がネットにぶつかる図 mpeg:岩が防護壁にぶつかる図

mpeg:岩塊が斜面を転がる図
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今回ご紹介した手法の、もう一つ重要な特長は簡単さです。相互作用の大きさは、ばね定数だけで規定することもでき、弾性や弾塑性の構成方程式に出てくる多くの定数が必要ありません。また、解いているのが運動方程式だけです。これらのことは、現象を支配している要因をできるだけシンプルに表現しようとする、物理学と共通した考え方です。地盤力学や岩盤力学の将来にも、大きく関与しそうな技術で今後が楽しみです。