
3次元フルウェーブトモグラフィ
今回は、弾性波を使ったトモグラフィの最先端をご紹介いたします。弾性波を使ったトモグラフィでは、発振点から受振点までの到達時間(走時)を用いるものが一般的です。また、この走時トモグラフィは、2次元面内での弾性波速度分布を求めます。この方法では、弾性波速度の分布を仮定しておいて、いわゆるレイトレーシングの方法で波線を求め、この波線に沿って弾性波が伝播した場合の走時を計算します。次に、計測された走時と計算された走時を比較し、これに基づき弾性波速度の分布を変化させます(図-1)。

図-1 2次元走時トモグラフィによる波線の例
例えて言えば、いろいろな方向からパッティングを行い、その結果からグリーンのアンジュレーションを推定するのが、2次元の走時トモグラフィです。この手法で難しいのは、レイトレーシングによって波線を求めることです。波線とは、弾性波が発振点と受振点とを最短時間で結ぶ線ですが、この波線を求めるためには、パッティングによってボールを必ずカップに入れなければなりません。ゴルフでは、打ち出し方向を少し変えるだけで、カップをはずすことになり、レイトレーシングの難しさを実感いただけるでしょう(図-2)。

図-2 ゴルフのパッティング
2次元の走時トモグラフィでは、波線が必ず2次元平面内を通過することを前提としています。ゴルフで例えるならば、ボールはグリーンの面から飛び出したり、もぐりこんだりしないことが条件です。しかし、地下に空洞が存在するなど、速度構造が複雑な場合には、波線は面内を通らない場合があり、このような問題には、3次元トモグラフィが必要となります。
この場合でも、2次元同様にレイトレーシングを行いますが、3次元問題の場合には、これが非常に困難になります。水中で浮かびながら、水より少し重いボールでパッティングを行い、海底面に設けられたカップに入れるようなものです。水温がまちまちで水の粘性が異なり、ボールの速度が一定しないとなると、カップに入れることはまず無理でしょう。すなわち、3次元で走時トモグラフィを行うことは、大変な困難が伴います。
そこで考案されたのが、受振点で計測された波形そのものを用いる、フルウェーブトモグラフィです。計測された波形と、3次元のモデルより理論的に計算される波形とを比較し、3次元モデル内の弾性波速度分布を推定します。走時に比べ、弾性波の波形は多くの情報を含んでいるために、弾性波速度を決めるための手掛かりが多いのです。とは言え、波形全部を使うと情報量が多すぎて、計算に多くの時間が必要となります。そこで、特定の周波数の波だけを用いて計算する方法が、京都大学の松岡先生や渡辺先生らによって提案されています。
この方法では、受振された波をフーリエ変換して特定の周波数の振幅を取り出し、同様の方法で得た発振点の振幅と比較します。受振点では、発振点に比べ振幅が減少していますが、これは弾性波の伝播距離による幾何減衰と地盤の特性としての減衰によるものです。地盤の減衰特性が仮定できれば、伝播距離による幾何減衰が計算でき、このような幾何減衰を生じさせるような弾性波速度分布を作り出すように逆解析を行います。
ここでは、物理探査vol.54,No.3,pp.142-154(上坂進一/渡辺俊樹/松岡俊文/芦田護)に掲載されている例題を、私どものソフトウェアで解いたものをご紹介いたしましょう。
解析対象のモデルは、真ん中に三角形をした弾性波速度の大きい部分があるものです(図-3)。このモデルで、最初に正解となる波形を求めておき(図-4)、これを計測結果と考えて、この波形から弾性波速度分布を逆に求めることができるかを試しています。

図-3 解析に用いたモデルの速度構造

図-4 計測波形の一例
図-5は、計測された波形から、80、160、240、320、400、480Hzの6つの周波数成分を用いて解析しています。トモグラフィ解析により、真ん中の三角形が捉えられていることがわかります。さらに、一つの周波数成分で求められた解を初期値として、次の周波数成分のトモグラフィ解析に用いる、といった方法により、より鮮明な解を得ることができることもわかりました(図-6)。

図-5 フルウェーブトモグラフィの結果

図-6 他の周波数での結果を初期値とする方法
フルウェーブトモグラフィは、3次元の地盤モデルを用いて、地盤内部を推定できる方法として有力です。トンネル前方の探査やゆるみ域の調査、地すべり面の探査など、3次元的な探査が必要な分野に活用されていくことでしょう。