
土を利用した落石・土砂崩壊対策の新しい工法開発(3)
平成17年11月、図-1に示す方法で、落石防護工に対する衝突実験を行いました。直径75cmの重錘を11.1mの高さから振り子方式で落下させ、防護工に衝突させます。この方法で疑似落石を運動させることにより、位置エネルギーがすべて衝突エネルギーになったと仮定します。5.0kNの重錘なので、55kJの落石エネルギーを想定します。重錘は、内部に空洞を持つコンクリートの球体に鉄枠がつけられたもので、内部の空洞には3軸の加速度計を設置しました。比重は、実際の岩と同じくらいに設定してあります。衝突対象の「環境対応型落石防護工」は、図-2~図-4の3タイプです1)。 動画は、タイプ1の実験の様子です。

図-1 実験概略図

動画:タイプ1(ジオテキスタイルを利用した落石防護工)の実験の様子
基本的には、防護工の中に充填する中詰材(地盤材料)が堤体の形状を保持できるように外枠が存在します。タイプ1は、ジオシンセティクスで土を包んでいる状態で、タイプ2およびタイプ3は箱の中に土を充填したイメージです。どのタイプも環境共生型の防護工としての環境に対応する機能(現地発生土の使用・植生の期待・ローエミッション)は十分に発揮できると考えられます。タイプ2とタイプ3は、落石防護工ではない土構造物を、落石対策に転用しようと考えたものです。
ここまでは、前回お話ししたとおりです。今回は、その実験結果です。

図-2 ジオテキスタイルを利用した落石防護工断面概略図と外観写真(タイプ1)

図-3 鋳鉄パネルを利用した落石防護工断面概略図と外観写真(タイプ2)

図-4 間伐材枠を利用した落石防護工概略図と外観写真(タイプ3)
衝突時に得られる重錘内に設置した加速度計のデータ、変形後の防護工の様子、また、実験時に撮影されたデジタルカメラ画像とビデオカメラ映像から実験結果をまとめました。また、NHK放送技術研究所の協力によって、超高速度ビデオカメラで重錘衝突の瞬間の詳細な映像を得ることができました。3軸加速度計から得られた情報は、速度・変位に換算しました。

図-5 重錘加速度-時間関係

図-6 重錘速度-時間関係
図-5には、重錘内の3軸加速度計から得られた加速度-時間関係を示しています。時間ゼロは衝突の瞬間です。また、そのデータを基に速度-時間関係を計算し、図-6に示しました。図-6より、全てのタイプで時間ゼロ時の速度が同じことが示されており、この実験の再現性の良さがわかります。速度がゼロ以下になったデータは、重錘が防護工によって跳ね返されたことを表しています。
図-5の加速度-時間関係をみると、タイプ1~タイプ2~タイプ3の順にマイナスの加速度が多く表れています。負の加速度の値が大きいほど、急激に減速していることを示します。つまり、タイプ1が固く、タイプ3が軟らかいということです。図-6の速度をみても、速度がゼロになるまでの時間が防護工のタイプによって異なることがわかります。

図-7 変位-時間関係(めりこみ具合)
このイメージで、図-7の変位-時間関係を見てみましょう。ここでいう変位は、【重錘がどれだけ防護工にめり込んだか?】を示します。図-7は、0.1秒までのめり込み具合を示しています。タイプ1は、早い時間に変位のピークを迎え跳ね返っていいますが、タイプ2・タイプ3とも徐々に変位が増していき、最終的にはタイプ3が40cm近くめり込んでいます。防護工内部に充填されている地盤材料の締め固めの度合いはタイプごとに異なりますが、充填されている土の硬さが、全体の固さに影響していると考えられます。重錘衝突後の防護工表面の写真を図-8~図-10に示しました。特にタイプ3(間伐材を利用した防護工)では、変形が大きいことがよくわかります。

図-8 衝突後の変状(タイプ1:ジオテキ補強土)

図-9 衝突後の変状(タイプ2:鋳鉄パネル枠)

図-10 衝突後の変状(タイプ3:間伐材枠)
さて、時間をかけてゆっくり衝撃を吸収する充填材(地盤材料)は、工事現場付近に存在する現地の土を利用できればそれで十分です。落石に対する変形量は、エネルギーの適用限界を見極め、設計に生かすことが理想です。また、充填材の透水係数が異なるため、水の影響を考慮しなければならない設置場所では、必要であれば透水性のよい防護工を選ばなければなりません。適用エネルギーとまわりの景色との調和なども考慮して、適材適所で選択できる性能設計の基準を準備することが理想的です。
次回も、今回の続きにもう少しだけおつきあいいただきたいと思います。NHK放送技術研究所が開発した超高速度カメラによる撮影結果と、3軸加速度計から得られたデータを比較します。