コラム

断層破砕帯の透水性

実験編/第23回担当:木下直人(2006.09)


「断層」や「断層破砕帯」という用語はよく知られており,また,断層(断層破砕帯)の存在が,岩盤全体の透水性に大きな影響を与えていることもよく知られています。しかし,断層が岩盤の透水性にどのような影響を与えているかを実際に把握することは必ずしも容易ではありません。


図-1 岩盤の透水性に対する断層の影響に関するいくつかの概念モデル
図-1 岩盤の透水性に対する断層の影響に関するいくつかの概念モデル1)

断層が岩盤全体の透水性に与える影響は図-11)に示すように様々です。a)の例では,高透水性の母岩(High permeability host rock)が断層部分でずれていることによって,岩盤全体としての透水性(特に水平方向の透水性)は低下します。b)の例では,透水性の低い岩盤中に存在する断層が水みちを形成しています。c)の例では高透水性岩盤中の低透水性岩石(Low permeability clay-rich rock)が断層内に取り込まれ,断層は遮水帯を形成しています。d)の例では,断層が2種類の要素から構成されていることにより,割れ目の発達した損傷帯(断層運動に伴って,主に力学的な影響を受けて割れ目が発達した領域)に沿う方向に対しては水みちとなるが,低透水性の断層核(断層変位の大半を受け持った部分)が存在することにより,断層を横切る方向に対しては遮水層として機能しています。


断層破砕帯の透水性を把握することが必ずしも容易でないのは,断層の構造が複雑である場合が多く,かつそれは断層活動の変遷に伴って時間的に変化していることにもよります。


図-2 野島断層の透水性構造
図-2 野島断層の透水性構造2)

図-22)は,兵庫県南部地震の起震断層である野島断層を構成する岩石試料について透水係数を調べた結果をまとめたものです。この例のように,断層およびその周辺に透水係数が極端に異なる複数の領域が存在することは決して特別なことではありません。この断層の場合,図-1d)の例と同様に,透水性の低い粘土質断層ガウジと透水性の高い断層角礫帯とで構成されていますので,断層に沿う方向では断層角礫帯が水みちとなるのに対して,断層を横切る方向に対しては,断層ガウジ帯が遮水層として機能すると考えられます。


このように,断層が岩盤の透水性に与える影響が様々であることを反映して,実際に断層破砕帯の透水係数を調査した結果も,表-13)に示されているように様々であり,母岩のそれと比較して非常に大きい場合も,非常に小さい場合もあります。


表-1 (1)断層破砕帯の透水係数(その1)
表-1 (1)断層破砕帯の透水係数(その1)3)

表-2 (2)断層破砕帯の透水係数(その2)
表-2 (2)断層破砕帯の透水係数(その2)3)

図-2の例のような,粘土質断層ガウジが介在する断層破砕帯では,透水性が大きく異なる2種類の要素から構成されているので,その透水性は顕著な異方性を示すことになります。したがって,このような断層破砕帯の透水性を調べる場合には,このような複雑な透水性構造を念頭において,調査目的にかなう結果を正しく取得できるような方法を採用する必要があります。




参考文献
1) Forster, C.B., Caine, J.S. and 山崎眞一:断層帯の構造と活断層における流体の流動様式,月刊地球,Vol.20,No.3,pp.165-171,1998.
2) 溝口一生,廣瀬丈洋,嶋本利彦:野島断層の透水性構造-兵庫県津名郡北淡町舟木露頭の解析-,月刊地球号外,No.31,pp.58-65,2000.
3) 核燃料サイクル開発機構:断層活動が地下の水理に与える影響に関する調査,JNC TJ7420 2005-039,1999.