
地下を調べるトモグラフィ技術の進化
前回までに、固体や流体の運動を予測するための、新しい数値解析技術をご紹介してきました。数値解析技術は進化し続けており、今後、コンピュータサイエンスの発展に呼応して、さらに新しい展開を見せてくれることと思います。
今回からは少し視点を変えて、予測するための数値解析技術ではなく、調べるための数値解析技術の最前線をご紹介します。調べるために用いられる数値解析技術の代表格は、コンピュータトモグラフィです。トモグラフィでは、調べる対象、例えば地盤や岩盤、地下水などに何らかの擾乱を与え、この反応から、これらの状態や物性などを推定します。トモグラフィと呼ばれる所以は、調べたいと思う領域の外側の境界から擾乱を与え、孔を開けること無しに内部の状態を推定することにあります。ここでは、特に地下の地盤の状態を調べるトモグラフィに注目することとします。今回は、地下に電場を発生させて、比抵抗の分布を調べる比抵抗トモグラフィです(図-1)。

図-1 2次元比抵抗トモグラフィの例(物理探査ハンドブック、物理探査学会)
トモグラフィ技術は古くから研究され、既に実用に供されています。ただし、これまではコンピュータパワーの制限により、2次元断面で検討されることがほとんどでした。
比抵抗トモグラフィでは、地表面に直線状に電極を配置して、それぞれの電極に順に電流を流し、このとき形成される電圧分布を計測します。比抵抗の分布を推定するにあたっては、計測している断面の状態が、断面奥行き方向に「金太郎飴(もう古いでしょうか)」のように続いていることを仮定します。
これには問題があります。例えば、計測断面のそばに、他の地盤と比抵抗の異なった領域、例えば空洞や地層境界が存在したとしますと、計測断面にはこれらが存在しないのにもかかわらず、計測結果はこれらの影響を受けたものとなってしまいます。例えば、空洞が確認されたと判断し、地下を掘削したとしても、そこには空洞が発見されません。
この問題を解決する方法が、3次元比抵抗トモグラフィです。この方法では、比抵抗が分布する3次元地盤モデルを基本とします。3次元有限要素モデルを用いれば、既にわかっている地層分布や空洞の状態などもモデルに取り入れることができます(図-2)。

図-2 3次元比抵抗トモグラフィモデルの一例
最初に、地盤内の比抵抗が均一と仮定して、計測時に与えたと同じ電場を3次元モデルに発生させて、計測点における電圧を解析して調べます。実際の地盤では、比抵抗が分布しているために、計測値と解析値は異なります。これらの値が近づくように比抵抗値の分布を修正していき、実際の比抵抗分布を推定するわけです。このとき、電流を流す電極が順次移動していくために、この数だけ3次元の電場解析を行う必要があり、計算量は膨大となります。これまで3次元比抵抗トモグラフィが用いられてこなかった理由の一つは、この計算を行うにはコンピュータのパワーが不足していたためです。
現在は、64bitのコンピュータが販売されており、並列計算やグリッドコンピューティングなど、複数のCPUを用いる計算手法が確立されています。これらを用いることにより、3次元地盤モデルを用いて比抵抗分布を計算することが現実的になってきています。
3次元比抵抗トモグラフィでは、仮に電極配置が2次元であっても、地盤モデルを3次元で作ることにより、比抵抗の分布をある程度推定することができます。さらに、電極配置を3次元にしたり、ボーリング孔内に電極を設けたりすることで、より高い分解能で地盤の比抵抗分布を推定することができるようになります。
このような技術は、将来どのように使われていくでしょうか。3次元で比抵抗分布が求まれば、地下水面や空洞の位置などをより正確に推定することができます(図-3)。さらに計算が高速化されれば、時間とともに変化する地下水面の位置も、リアルタイムに推定できるようになるでしょう。これは、トモグラフィによる地下の非破壊・リアルタイムモニタリングとでも呼ぶ技術です。豪雨時に、広い範囲で生じている地下水の上昇をモニタリングしたり、地震時に液状化した地盤の状態を調べたりすることができます。最近のプロジェクトでは、温暖化ガスである二酸化炭素を地下に貯留させて、地球環境への影響を緩和する方法などが検討されています。このような場合でも、3次元比抵抗トモグラフィで注入状況を連続観測したり、貯留状況をモニタリングしたりすることができるようになるでしょう。


図-3 3次元比抵抗トモグラフィの概念
(上:有限要素法による電位分布解析/下:逆解析により求めた比抵抗分布)
2次元から3次元、さらにはリアルタイムモニタリングへと、トモグラフィ技術は進化していくようです。次回は、電場ではなく弾性波を用いたトモグラフィの最前線をご紹介する予定です。