
土を利用した落石・土砂崩壊対策の新しい工法開発(2)
前回、土や岩を主材料とした構造物で、土の特性を生かした落石防護工の実験を紹介しました(2006.3月号)。実際の斜面を利用して落石の実験を行った場合、落石防護工に衝突する落石エネルギーの大きさがわからないと言う問題が発生しました。落石の重さと落下高さがわかっているので、位置エネルギーを算出できますが、斜面を転がってくるときに損失するエネルギーがわからないのです。
一方、人工的な斜面を使った実験から、わかったこともあります。図-1のように落石の運動は、「すべり運動」「回転運動」「跳躍運動」の3つの形態に分類できるとされています1)。平成16年度に行った実験では、図-2のように平坦に整形した斜面から鋳鉄球を転がしました。鉄球を転がす際には、斜面上の平坦な箇所から手で押して転がすため、ほとんど初速はゼロなのですが、途中まで転がるとバウンドし始めます。実際の落石であれば、転がり落ちる際に岩の形状によって飛び跳ねたりすることが予想されましたが、この実験では球体が飛び跳ねました。平坦な斜面上を「すべり運動」または「回転運動」しながら加速するだけと予想しましたが、実際には途中でバウンドを始めました。よく見ると、斜面が軟らかいので、鉄球が重力により加速することで斜面がへこみ、その'へこみ'がきっかけとなってバウンドするようでした。実際の岩であれば、きっかけになる突起を自ら有しているので、より跳躍しやすいと思われます。斜面が土であるために起こる現象と感じられました。

図-1 落石運動の模式図


図-2 落石実験の様子
平成16年に行った実験では、防護工に入力される落石(鉄球)のエネルギーが不確定でしたから、その問題を解決するために、図-3に示す方法で平成17年に再度実験を行いました。直径75cmの重錘を11.1mの高さから振り子方式で落下させ、防護工に衝突させます。この方法で疑似落石を運動させることにより、位置エネルギーがすべて衝突エネルギーになったと仮定します。5.0kNの重錘なので、100kJの落石エネルギーを想定することになります。重錘は、内部に空洞を持つコンクリートの球体に鉄枠がつけられたもので、内部の空洞には3軸の加速度計を設置しました。このような実験方法は、エネルギーロスが非常に小さいため、これまでいろいろなところで活用されています。

図-3 実験概略図
落石防護工は、地盤材料を中に詰めたものを3種類準備しました。以下の3つがそれです。
- タイプ1:ジオテキスタイルを利用した落石防護工
ジオシンセティクスと壁面材により堤防形状を成形し、現地発生土を充填する。土の特性を利用して、落石や土砂崩壊のエネルギーを分散させながら受け止める。 - タイプ2:鋳鉄パネルを利用した落石防護工
ダクタイル鋳鉄製のメッシュ状パネルを組み合わせたカゴを成形し、現地発生土を充填する。充填土に砕石を利用することで、より良い排水機能が見込まれる。 - タイプ3:間伐材枠を利用した落石防護工
間伐材を利用した柵工として開発された。小規模の落石防護工としての性能が期待できる。
基本的には、中に充填する中詰材(地盤材料)が堤体の形状を保持できるように外枠が存在します。タイプ1は、ジオシンセティクスで土を包んでいる状態で、タイプ2およびタイプ3は箱の中に土を充填したイメージです。図-4~図-6には、3つの防護工の概要を示します。どのタイプも環境共生型の防護工としての環境に対応する機能(現地発生土の使用・植生の期待・ローエミッション)は十分に発揮できると考えられます。タイプ2とタイプ3は、落石防護工ではない土構造物を、落石対策に転用しようと考えたものです。このほかにも、落石防護工として利用できそうな土構造物がいくつか存在しますが、その中で、今回の実験は、他の機能を有する土構造物を、落石防護工に転用できるかどうかを調べた実験でもあります。

図-4 ジオテキスタイルを利用した落石防護工断面概略図と外観写真(タイプ1)

図-5 鋳鉄パネルを利用した落石防護工断面概略図と外観写真(タイプ2)

図-6 間伐材枠を利用した落石防護工概略図と外観写真(タイプ3)
この報告では、平成17年に実施した実験の概要のみに終わってしまいましたが、次回は平成16年の実験結果をふまえて、平成17年の実験結果を報告します。