
割れ目の透水性(その2)
前回は,天然の単一割れ目に垂直応力が作用した場合についての室内透水試験例を紹介し,割れ目に作用する垂直応力が0から30MPa程度まで増加すると,割れ目の透水係数は1/10から1/数100程度に低下することを示しました。今回は,天然の単一割れ目にせん断応力が作用した場合についての試験例を紹介したいと思います。
一般に,岩盤内に存在する割れ目には,垂直応力だけでなく,せん断応力も作用しており,それによってせん断変形も生じています。せん断変位の進行に伴う割れ目の透水性の変化を調べるための室内試験には,通常割れ目に作用する垂直応力を一定に保ちながら行う「垂直応力一定試験」という方法が用いられています。天然の単一割れ目を有する来待砂岩(一軸圧縮強度約30MPa)を用いて実施した試験結果の例1)を図-1に示します。5個の試験体(S-1,S-2,S-3,S-4およびS-5)について試験を実施しており,それぞれの試験における垂直応力は0.3MPa,0.6MPa,1.0MPa,2.0MPaおよび5.0MPaとなっています。この試験を行う前に,九州大学の三谷先生ら2)は,せん断変形の進行に伴って,割れ目の上下面がせん断方向に直交する方向に縞状に接触することを数値シミュレーションにより確認しており,せん断方向とそれに直交する方向とでは,透水性の変化が大きく異なる(透水異方性が生じる)可能性があると考えられました。そこで,この試験では,せん断方向(x方向)とそれに直交する方向(y方向)のそれぞれについて,透水性の変化を調べています。

図-1 天然の単一割れ目を有する来待砂岩のせん断-透水試験結果1)
割れ目に作用する垂直応力(σn)が小さいと,試験開始時にほぼかみ合っていた割れ目は,割れ目表面の凹凸に沿ってせん断変形するので,わずかなせん断変形でも垂直変位(ダイレーション)が発生します。これは割れ目の開口幅が増大することを意味します。図-1に示した例でも,割れ目に作用する垂直応力が小さいケース(S-1,S-2およびS-3)では1~2mm程度のせん断変位に伴って,せん断方向の透水係数(kx)も,それに直交する方向の透水係数(ky)も大幅に増加しています。そして,せん断応力(shear stress)がピーク値に達してからは,直交方向の透水係数(ky)が進行方向の透水係数(kx)よりも明らかに大きくなっており,顕著な異方性を示しています。
割れ目に作用する垂直応力が大きくなると,割れ目表面の凹凸が破壊されるようになるので,せん断の進行に伴うダイレーションの増加は抑制されるようになります。それと同時に割れ目表面の凹凸が破壊されることによって生じたガウジが割れ目内の空隙を充填するので,割れ目の透水性の増加は抑えられ,軟岩では透水性が低下することもあります。図-1のS-5(垂直応力5.0MPa)の例では,コントラクタンシー(収縮)挙動を示しており,それに対応して,直交方向の透水係数(ky)が測定限界以下になってしまったため,測定値が示されていません。
このような室内実験結果から,実際の岩盤でも,せん断変形が認められる割れ目では開口幅が大きくなっており,割れ目内の空隙が透水性の低い充填物によって充填されていなければ高い透水性を示すことおよび割れ目面内では方向によって透水性が異なることが予想されます。また,地下空洞の掘削に伴って,既存の割れ目に沿ってわずかにせん断変形が進行するだけでも,割れ目の透水性が顕著に増加する可能性があることも予想されます。
1) 三谷泰浩,江崎哲郎,中島祐一,郷家光男,石井 卓,木下直人:岩盤不連続面の透水異方性に関する実験的研究,第11回岩の力学国内シンポジウム,G04,2002.
2) 三谷泰浩,江崎哲郎,田中誠一郎,和田圭仙:新しいせん断-透水同時実験装置の開発とGISによる不連続面内流れのシミュレーションに関する研究,第30回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.15-21, 2000.