コラム

ボクセル法で高速三次元モデリング

数値解析最前線/第4回担当:里 優(2006.04)


コンピュータの画像表現では、画素単位としてピクセルという名前が用いられています。Picture Elementの略です。これが3次元になれば、Box Elementでボクセルになります。ボクセル法とは、解析対象の3次元形状を、細かいボクセルの集まりとして表現しようとするものです。


一般的な有限要素モデリングでは、モデルの表面形状をモデル化し、しかる後に内部を要素に区切っていきます。ボクセル法では発想を変えて、豆腐のさいの目切りのようにモデルをどんどん立方体に切っていきます。図-1に、3DCADからボクセルモデルを作成した例を示します。もし、このような方法が可能であれば、いかなる3次元形状を持つ解析対象も、自動的にメッシュに切って行けますから、解析を行う技術者はメッシュを切ることを意識しないですみます。


図-1 ボクセルによるモデリングの一例
図-1 ボクセルによるモデリングの一例

この意味で、メッシュレス法の一つということができます。場合によっては、写真やCTの結果から直接3次元モデルを作ることもできるでしょう。この方法は、東京大学新領域創成科学研究科の鈴木克幸先生が積極的にご研究されており、論文やインターネットに成果を公開されています。この資料に基づいて、ボクセル法をご紹介します。


有限要素法のメリットの一つは、モデルの形状をできるだけ正確に表現できることです。このため、有限要素法を用いたシミュレーションは飛躍的に発展しました。ボクセル法のように立方体でモデルを作成すれば、表面形状はがたがたとなり、計算結果も精度の低いものとなるように思えます。しかし、よく考えてみると、有限要素法も節点の集まりであり、基本的にはがたがたのモデル化です。これを形状関数や内挿関数によって、一種のスムージングを行い、また、体積積分を行うことによって物性の平均化を行うことで、滑らかな解析結果が得られています。ですから、あまり細かいことを言わなければ、ボクセルモデルであっても、有限要素解析ではある一定の精度で答えを求めることができます。


他方、一般的な有限要素モデリングでは、大変形問題やキ裂の成長問題などを取り扱う際に、メッシュのトポロジーを変更できないために、つぶれや貫入、あるいは分離といった表現がしづらく、何らかの工夫が必要となっています。ボクセル法では、モデルの形状が変化しても、ボクセルはそのままの形でおいておきますから、例えば大変形問題では、モデルがいかに変形しようとも再度メッシュを切りなおせば、引き続きモデルを変形させていくことができます。


図-2には、大変形問題をボクセル法を用いて解いた場合の概念を示します。モデルがどんどん変形していくと、節点座標を移動してメッシュを切りなおしても、要素形状はいびつになっていきますし、貫入などの現象は表現することができません。しかし、変形した後に再度ボクセル法でモデリングしなおせば、どこまでも計算を進めることができます。図-3は、鈴木先生の行った貫入の解析例です。


図-2 ボクセル法による大変形問題の解析
図-2 ボクセル法による大変形問題の解析

図-3 ボクセル法による貫入の解析
図-3 ボクセル法による貫入の解析

また、キ裂の成長問題でも、キ裂の入った部分の要素を取り払いながら計算を進めていくことで、特殊な処理をすることなく答えを求めることができます。図-4は、表層雪崩のシミュレーションで、積雪中のキ裂が成長して行き分離するまでが表現されています。


図-4 ボクセル法による雪崩れの解析
図-4 ボクセル法による雪崩れの解析

この方法は、コンピュータの速度や容量が大きくなってきた現代にマッチすると考えます。有限要素法の黎明期は、コンピュータの速度や容量が小さいために、要素や節点数を減らす必要があり、形状関数や内挿関数を用いて節点間のスムージングを行って、少ない節点数でも精度の高い答えがでるように工夫されてきました。しかしながら、例えば岩石やコンクリートの亀裂を表現しようとする場合に、形状をきちんと表現しなければならないため、極めて小さな要素ができてしまい、節点数が大きくなってしまう、あるいは精度が低くなってしまうといった、矛盾が生じています。


近年ではコンピュータ技術の進歩によって、かなりの規模の節点数であっても計算が可能となっています。それであれば、これまで有限要素モデリングで行われてきた、表面形状をモデル化した後に内部を要素分割する方法ではなく、ボクセルで直接モデルを分割して計算する方法を用いることで、この矛盾を回避することができます。ボクセルモデリングであっても、小さなボクセルを用いることで精度の高い答えが出せるからです。また、複雑なモデルになればなるほど、これまでの有限要素モデリングよりも、節点数を減らすこともできます。


わたしどもが対象としている地盤や岩盤では、有限要素解析を行うために複雑な地層境界をモデリングしたり、物性が時々刻々変化していく問題を取り扱う必要があります。このような問題に対して、ボクセル法は魅力的な手段を提示してくれるのではないでしょうか。