コラム

土を利用した落石・土砂崩壊対策の新しい工法開発(1)

防災・減災編/第2回担当:沢田和秀(岐阜大学・地盤工学研究室 助教授)(2006.03)


土構造物とは、土や岩を主材料とした構造物で、盛土や堤防、宅地地盤など身近なところにも見られます。今回は、土の特性を生かして防護工を構築し、落石や土砂崩壊を受け止める技術の例を紹介します。周知の通り、土は土粒子の集合体ですから、引張りには非常に弱い構造です。今回紹介する「落石・土砂崩壊防護工」は、土が粒々である特徴を生かし、落石を受け止めたあと、そのエネルギーを伝達しながら分散させ衝撃を吸収する技術です。以下1)~4)が一般的に考えられるその優れた特徴です。


1)簡単な工事
現地発生土を使うため簡単な作業で構造物を構築できます。そのため騒音・振動を伴わず、施工時に大型重機を必要としません。


2)基礎工事不要
土は、砂・石・粘土の粒々で構成されているため、どのようにでも整形でき、また軽量です。そのため、防護工を設置する地盤に追従できるので、大規模な基礎工を施す必要がありません。防護工の形状は、落石などを側面で受け止める堤防型と、イ型シェッドのように天端で受ける上面受け型があります。これらは地形や落石等の規模により、設計時に選択されます。


3)柔な壁面で衝撃を伝達・吸収
防護工は、その形状を保つために、壁面材として鉄・ジオテキスタイル・木などを組み合わせて使用しますが、落石などの衝撃は土自体で受け止めます。防護工が受けた衝撃は、表面から内部の土粒子に次々に分散しながら伝達され、構造物全体で受け止めます。ボクシングの練習で使用するサンドバッグも同じ原理でパンチ力を吸収します。落石などにより、形状を保つための壁面材が壊れても、もともと粒々である壁面材内部の土は、簡単に元の形に戻せるので壁面材を取り替えるだけで簡単に補修できます。


4)壁面緑化可能
土でできているため、植栽・植生が可能であり、緑化に適しています。周囲の環境に合わせたデザインが可能です。


現在、この技術を用いた落石・土砂崩壊防護工が普及し広く使用されるように、岐阜大学地盤工学研究室では、設計・施工マニュアル作成のための実験や数値解析を行っています。2004年11月には岐阜県内おいて、実物大規模の公開実験を行い多くの技術者の賛同を得ました。2005年11月にも実物大の公開実験を行い、前回よりも詳細な実験データを得ました。環境負荷が少なく安価で施工性のよいこの技術が、特に危険斜面を多数抱える岐阜県を中心に利用されることを願います。


詳しい内容は論文1)に譲るとして、2004年に行った実験について、その内容を報告します。落石エネルギーは、落石の大きさとその落下高さから算定することができます。一般的には、図-1のように、落石エネルギーの違いにより落石防護工の種類を選定できる目安が落石便覧2)に示されています。


図-1 落石防護工のエネルギー適用範囲の目安
図-1 落石防護工のエネルギー適用範囲の目安2)

図-1では、落石防護土堤が1000kJを中心としたエネルギー吸収性能と位置づけられています。今回紹介する実験では、土を使った防護工で、しかも土堤でないタイプについて、その適用範囲を確認するために行いました。図-2および図-3のように、丈夫なH型鋼の架台を組みたて、その前面に、(1)鋳鉄パネル枠で作った緩衝材3)、(2)土のう4)、(3)EPSクッション4)を3種類の異なる緩衝材を設置して、それぞれを異なる落石防護壁とし、斜面から鉄球を落下・衝突させました。鋳鉄パネル枠で作った緩衝材とは、鋳鉄で作ったメッシュパネルを籠状に組み立て、その中に栗石を充填したものです。土のう緩衝材は、土のう袋の中に砂を充填したものです。データ計測は、衝突荷重を確認するための動的計測と変形等を確認するための目視観測を行いました。動的には、加重受け台に8台の荷重計を固定し、デジタル動ひずみ測定機を用いて応答荷重を測定しました。サンプリング間隔は0.2ms(5000Hz)、計測時間は3秒程度です。鉄球はφ150、300、600㎜の鋳鉄製球体で、それぞれ0.36、1.67、5.0kN相当の重量となります。衝撃吸収能の確認は、H型鋼に直接鉄球が当たった場合と、それぞれの緩衝材を介した場合の荷重計の値から衝突荷重を算出し、それぞれの結果を比較しました。


図-2 落石実験の概略図
図-2 落石実験の概略図

図-3 落石実験の概略(実験の様子)
図-3 落石実験の概略(実験の様子)

図-4、図-5は、パネル枠緩衝材を配置した場合と、緩衝材を配置しない場合の衝突荷重の応答波形を整理した結果です。最大衝突荷重は、架台背面に設置したロードセル8点から得られた同時刻の荷重合計です。どの鉄球の衝突に対しても、パネル枠緩衝材がない場合(図-5)は、パネル枠緩衝材がある場合(図-4)に比べてほぼ10倍の衝撃力を示しました。パネル枠緩衝材がない場合の衝突荷重の波形は、衝突時に大きな荷重を示し、短時間で衝撃力が消散しており、極めてシャープな形状を示しています。また、衝撃力が消散するまでの時間は、パネル枠緩衝材を用いた場合の方が長くなりました。つまり、緩衝材を用いると衝撃をゆっくりと受け止めているといえます。


図-4 緩衝材を配置した場合の衝突荷重の応答波形
図-4 緩衝材を配置した場合の衝突荷重の応答波形

図-5 緩衝材を配置しない場合の衝突荷重の応答波形
図-5 緩衝材を配置しない場合の衝突荷重の応答波形

図-6 各緩衝材に対する落石衝突時の衝突荷重の応答波形
図-6 各緩衝材に対する落石衝突時の衝突荷重の応答波形

同様に、土のうおよびEPS緩衝材を用いた場合も衝撃荷重を比較しました。EPSブロックは、衝突荷重は極めて小さく、衝撃力の消散、逸散までに時間を要しました。一方、土のう緩衝材の場合には、EPSブロックに比べて最大衝突荷重は大きいものの衝撃力が消散、逸散するまでの時間は短くなりました。どちらの緩衝材にしても、緩衝材がない場合に比べると、優れた性能を呈していることが分かります。図-7のように、鉄球衝突後はそれぞれ大きく変形しているが、その部分を交換すればもとの緩衝効果を取り戻せることが予想できます。先に述べた、鋳鉄パネル枠緩衝材も、鉄球が衝突したパネルは破損しているが、それ以外は問題なく破損したパネルを補修すれば十分もとの性能を発揮できると考えられます。


このように、土を緩衝材とした落石防護壁は、落石をゆっくりと受け止めることで衝撃を緩衝する性能を有し、冒頭に述べた特徴を持つ多くの可能性に満ちた落石防護工法です。今後、これらを性能設計できるように、緩衝効果、適用エネルギー等を明確にし、実用するための設計・仕様を作成する必要があります。それらの問題については、平成17年に行われた実大実験結果とともに、次回以降に報告します。


図-7 土のう緩衝材およびEPS緩衝材の変形状況
図-7 土のう緩衝材およびEPS緩衝材の変形状況

  • 弊社では平成16年度より、産学連携による技術開発や最先端技術の提供を行う一環として、岐阜大学との産学融合事業を行っております。落石・土砂崩壊に関する受託解析も承っております。お気軽にお問い合わせ下さい。


    • 参考文献
      1) 森口周二他、:地盤材料の特性を活かした落石・土砂防護壁に関する実大規模実験、 第14回調査・設計・施工技術報告会発表論文集、p.7-14、 2005
      2) 日本道路協会:落石対策便覧、1983.
      3) 八嶋厚、 沢田和秀、 武藤隆則、 辰井俊美:ダクタイル鋳鉄製パネル枠を用いた実大落石衝突実験、 第40回地盤工学研究発表会、 No. 1225、 CD-ROM
      4) 八嶋厚、 沢田和秀、 妹尾善和、 美野輪俊彦、 辰井俊美、 中川幸洋:ソルパック緩衝システムを用いた落石防護壁の実大衝撃実験、 第40回地盤工学研究発表会、 No. 1225、 CD-ROM