コラム

割れ目の透水性(その1)

実験編/第21回担当:木下直人(2006.01)


今まで何回も述べてきましたように、不連続性岩盤の透水性は、岩盤内の様々な割れ目の透水性によって支配されています。軟岩でも、透水特性に関しては力学特性以上に不連続面の影響を受けやすいので、一般に考えられている以上に不連続面の影響を無視できない場合が多いと考えられます。したがって、岩盤内の地下水挙動を明らかにするためには、主たる浸透経路となる割れ目(き裂)の透水特性を調べることが重要です。そこで、近年、天然の単一割れ目に垂直応力やせん断応力が作用した場合について、透水特性の応力依存性を把握するための室内透水試験例が増えてきています。今回は、単一割れ目に垂直応力が作用した場合についての試験例を紹介したいと思います。


図-1 割れ目の透水係数と有効拘束圧の関係-国内
図-1 割れ目の透水係数と有効拘束圧の関係-国内

図-1は、縦方向に割れ目を有する円柱状の岩石供試体に対して、三軸圧縮型透水試験装置を用いて、拘束圧を作用させた状態で軸方向に水を流し、割れ目の透水係数と有効拘束圧の関係を求めた例です1)-3)。いずれも、私が直接試験に関与した、硬岩についての試験例です。完全に分離している天然の割れ目を含む試料を用いているものは赤色で、密着している(一部分離している試料を含む)天然の割れ目を含む試料を用いているものは黒色で示しています。また、圧裂引張試験によって人工的に割れ目を設けたものは青色で示しています。天然の割れ目は、1試料を除いて、沸石、方解石、石英、緑泥石といった充填物が含まれているのに対して、人口割れ目は充填物が含まれていません。


図-2 割れ目の透水係数と垂直応力の関係-海外
図-2 割れ目の透水係数と垂直応力の関係-海外

図-2は、海外における硬岩についての試験例を示しています1)。これらは、中央に小穴を持ち、水平割れ目を有する円柱供試体に対して、軸方向に荷重を作用させた状態で放射状に水を流し、垂直応力と割れ目の透水性の関係を求める方法によって得られたものであり、昇圧過程(Loading)と降圧過程(Unloading)の両方について測定して比較がなされています。国内における試験例とは逆に、1試料だけが割れ目内に充填物が存在しており、それ以外の試料は割れ目内に充填物が存在していません。


図-1と図-2の縦軸に用いられている割れ目(き裂)の透水係数(Fracture permeability)kfは次式で表されます。


式(1) (1)

ここで、ρは水の密度、gは重力加速度、eは水理学的開口幅(平行2枚板の間隔)、μは水の粘性係数です。なお、割れ目の透水係数kfと割れ目の密度ηが既知であれば、岩石基質部分は不透水であると仮定することにより、次式を用いて岩盤としての透水係数krを求めることができます。


式(2) (2)

図-1と図-2から、岩盤内には多様な割れ目が存在していることを反映して、割れ目の透水係数は非常に広い範囲にわたって分布していること、および完全に分離している割れ目の透水係数は、密着している(分離していない)割れ目のそれよりも全体的に大きいことがわかります。この結果から、岩盤の透水性を支配しているのは、完全に分離している割れ目である場合が多いと推測されます。したがって、実際に試験を実施する立場からすると、完全に分離している割れ目よりも、密着している割れ目のほうが、試料の採取も、試験の実施も、また試験結果の解釈もはるかに易しいのですが、それでも、完全に分離している割れ目を用いた試験を実施する必要がある場合が多いと考えられます。


どの岩石も、拘束圧(垂直応力)が増加するにしたがって割れ目の開口幅が減少するので、割れ目の透水係数は減少しています。一部の例外はあるものの、拘束圧が0から30MPa程度まで増加すると、割れ目の透水係数は1/10から1/数100程度に低下しています。特に、拘束圧が低いと、拘束圧の増加に伴うき裂の閉合が顕著なため、割れ目の透水係数の変化が大きくなっています。したがって、地下深部岩盤内に空洞を掘削すると、割れ目に作用する垂直応力が変化することにより、空洞周辺岩盤の透水性が大きく変化すると推測されます。




参考文献
1) N.Kinoshita, T.Ishii, H.Kuroda and H.Tada: Prediction of Permeability Changes in an Excavation Response Zone, Nuclear Engineering and Design,No.138, pp.217-224, 1992.
2) 多田浩幸,木下直人,若林成樹:岩石割れ目の透水係数と応力の関係を用いた空洞周辺岩盤の透水特性変化の予測手法,第9回岩の力学国内シンポジウム講演論文集,pp.139-144, 1994.
3) 安部 透,松井裕哉,堀田政國,木下直人:坑道掘削に伴うき裂の透水特性変化に関する基礎実験,第30回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.268-272,2000.