
岩盤の透水係数と深度の関係
一般に、地下深部になると、岩盤の透水性は低下する傾向があることが知られています。例えば、BianchiとSnow1)およびSnow2)は、アメリカ国内のダムサイトとトンネルにおける透水試験結果をまとめて、図-1に示すように、花崗岩や片麻岩のような結晶質の不連続性岩盤の透水係数は、深度の増大に伴って急激に低下していることを指摘しています。また、Carlssonら3)は、スウェーデンにおける結晶質岩からなる岩盤の透水係数と深度の関係に関する測定例をまとめています(図-2)。北欧では、大陸氷の浸食作用により、地表の風化帯がほとんど削り取られてしまっており、現在では、比較的一様な岩盤が浅部から地下深部まで分布しているとみなすことができます。したがって、測定結果のばらつきも少なく、深度の増大とともに透水係数が低下する傾向が明瞭にみられます。

図-1 岩盤の透水係数と深度の関係の測定例(アメリカ)1), 2)

図-2 岩盤の透水係数と深度の関係の測定例(スウェーデン)3)
わが国では、厚い風化帯が存在したり、岩種が途中で変わったりする場合が多いこともあって、図-1や図-2のような明瞭な関係がみられた例はごく少数です。図-3は、比較的一様な岩盤が浅部から地下深部まで分布しているとみなすことができる岐阜県の神岡鉱山において、岩盤の透水係数と深度の関係を調べた例です4)5)。大規模な断層が存在するところを避け、幅が数cm以下の小規模な割れ目だけが存在するところに限定してみると、岩盤の透水係数は、深度の増大に伴って大幅に低下しています。最も深度の浅い地点(深度約150m)と最も深い地点(深度約1000m)とを比較すると、後者の方が4~5桁透水係数が小さくなっています。

図-3 岩盤の透水係数と深度の関係の測定例(神岡鉱山)4), 5)
神岡鉱山以外でも、関西電力金剛開閉所6)、東濃超深地層試験研究領域7)等において岩盤の透水係数と深度の関係が調べられており、地質が不良なところを除けば、全体的に、深度が増大すると岩盤の透水係数は顕著に低下する傾向がみられます。深度500mにおける花崗岩質岩盤の平均的な透水係数は、地質不良個所を除けば、10-9m/sのオーダーの値を示しています。この値は、図-2に示したスウェーデンにおける測定例と比較すると、約2桁大きくなっています。
BianchiとSnow1)およびSnow2)は、深度の増大に伴う岩盤の透水係数の低下に対しては、割れ目の密度の減少よりも割れ目開口幅の減少の影響の方が大きいことを指摘しています。筆者ら4)も、神岡鉱山において、透水試験と同時に割れ目の開口幅の調査を行い、図-4に示すように、割れ目総数に対する開口割れ目の比率が深度の増大に伴って顕著に低下していることから、地下深部になると透水係数が低下するのは、主として地山応力が増大することにより割れ目の開口幅が減少するためであると考えています。

図-4 割れ目開口率と深度の関係
国内の結晶質岩盤での実測例に見られるもう一つの特徴は、地下1000mといった深部になっても、割れ目が発達している地質不良箇所が必ず存在していることです。例えば、金剛サイトでは、透水性が高いゾーンが繰り返し出現しています.また、神岡鉱山でも、SK地点に見られるように、透水性が高い区間が存在しています。このような箇所では、良好な岩盤と比べて透水係数が数桁大きくなることもあります。
1) Bianchi, L. and Snow, D. T. : Permeability of crystalline rock interpreted from measured orientaions and apertures of fractures, Ann. Arid Zone, Vol.8, No.2, pp.231-245, 1968.
2) Snow, D. T. : Rock fracture spacings, openings, and porosities, J. Soil Mech. and Found. Div., ASCE, Vol.94, No.1, pp.73-91, 1968.
3) Carlsson, L., Winberg, A. and Rosander, B. : Investigations of hydraulic properties in crystalline rock, Materials Research Society Symposia Proceedings, Vol.26, pp.255-267, 1984.
4) 木下直人, 安部 透, 竹村友之, 横本誠一:原位置透水試験による周辺岩盤の水理特性の調査,第25回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集, pp.481-485, 1993.
5) 木下直人,石井 卓,安部 透,竹村友之 : 空洞掘削に伴う周辺不連続性岩盤の透水特性変化,第27回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.206-210, 1996.
6) 志田原 巧他:CAES-G/T発電のための硬岩地下空洞の圧縮空気貯蔵機能評価-ボーリング孔内水封試験のための金剛サイトの地質-,電力中央研究所報告,研究報告:U91057,1992.
7) 竹内真司他:1000mボーリング孔を用いた圧力干渉試験による断層近傍の透水性調査,第31回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.296-300, 2001.