
粒子法の驚異の世界
前回は、メッシュを切ることを気にしなくて良い数値解析手法を紹介しました。今回は、メッシュといった概念が無い驚きの連続体解析手法、粒子法を紹介します。
先日、国内では粒子法の第一人者である、東京大学大学院の越塚先生にお会いし、詳しくお話を伺ってきました。ここでは、できるだけわかりやすくその手法をご説明しましょう。
越塚研究室のホームページには、粒子法について、次のような記述があります。
「粒子法における計算方法の課題は、格子を用いずにいかに支配方程式の離散化を行うかということである。本研究は粒子法における離散化の手段として、偏微分演算子(gradient, divergence, Laplacian)と等価な粒子間相互作用モデルを作った。これを用いれば、偏微分方程式で書かれた連続体の支配方程式を、格子を用いることなしに粒子間相互作用に変換することができる。ここでは、偏微分方程式を粒子間相互作用に変換する過程を粒子法における離散化である、と考える。」
例えば、ひずみは変形の傾き(微分)ですが、二つの粒子における変形の差を、その粒子間の距離で割れば、ひずみが定義できます。地下水流れでは、各粒子の全水頭(ポテンシャル)の差を粒子間の距離で割ってやれば、動水勾配が定義できる、といった具合です。有限要素法などのメッシュと違い、粒子は自由に移動でき、そのたびに傾きを定義できるので、大変形問題や流体解析にもそのまま適用できます。また、計算では粒子同士の相互作用のみに注目すればよいため、FEM(有限要素法)のように大規模な連立方程式を解く、といった手間がなくなります。
もう20年以上前になりますが、粒子状の要素を用いたDEM(個別要素法)解析を行った経験があります。当時のDEMは粒子の衝突のみを取り扱っていましたが、粒子同士がバネで結ばれていたらどうなるだろうと考え、計算してみたことがあります。この結果とFEMの結果を比べたのが 図-1です。DEMでもFEMでも同じ答えが出ました。FEMでは仮想仕事の原理により、ひずみエネルギーが最小となるように全体が変形しますが、DEMでは隣の粒子との相互作用しか考慮していないのでエネルギーが最小となるような制約はありません。これがなぜ同じ変形になるのかがわからず、頭を抱えたものでした。

図-1
粒子法では、先に示したように明快にこの問いに答えています。偏微分方程式で書かれた連続体の支配方程式を、粒子間相互作用に変換することが可能であることを粒子法は示しており、粒子の相互作用を定義したDEMは連続体の離散化解法そのものだったのです。さらに、越塚先生は次のように述べています。
「粒子間相互作用モデルによる離散化の考え方は、静電力の物理にヒントを得たものである。静電力は粒子間相互作用として表せばクーロン力である。一方、静電ポテンシャルのラプラシアンが電荷密度であるとする偏微分方程式(ポアッソン方程式)を解き、その勾配として静電力を計算することもできる。これはすなわち、偏微分演算子を用いた計算と粒子間相互作用を用いた計算が等価であることを意味している。静電力では、点電荷といった粒子的状態および電荷密度といった連続体的状態が、どちらも実体として存在するので、2つの法則が並立していても違和感が無い。しかし、流体などの多くの連続体では、粒子的状態が物理的実体として存在しない。そのような場合にも離散化の方法として静電力における粒子間相互作用は使えると考える。そしてクーロン相互作用は、ポアッソン方程式と等価であり、あらゆるポアッソン方程式(たとえば圧力のポアッソン方程式)の離散化に適用できる、と考えるわけである。」
何とも、示唆に富んだお話ではありませんか。量子力学の世界では、光や電子は粒子性と波動性を同時に備えることが示されています。このことは、人間の直感とは相容れないものです。しかし、粒子法の計算結果を見ると何となく理解できるような気がします。物理学の最前線とも粒子法はつながっているのかも知れません。
ともかく、粒子法の計算例をご覧ください。越塚先生のホームページに数多く掲載されています。構造物と流体の相互作用の計算例では、構造物の変形と同時に流体の挙動が、見事なまでに表現されています。これをCGなどの技術によって粒子間の空間を補完すれば、きれいな連続体としての挙動が表現できるはずです。また、岩石の破壊やキ裂中の地下水の流れなど、目ではなかなか見ることができないものを、粒子法によって表現することで、微視的な現象の研究に役立つかもしれません。
なお、より詳細に知りたい方は、丸善より先生の著書として「粒子法」が発売されていますのでご覧ください。