
岩石・岩盤の透水係数(その3)
前々回、岩石・岩盤の透水係数は非常に幅広い分布を示していることを紹介しました。今回は、同一地点における岩盤の透水係数のばらつきについて述べたいと思います。
前回、岐阜県の神岡鉱山において、様々な深度で岩盤の透水係数を測定し、比較的一様な岩盤が浅部から地下深部まで分布しているにもかかわらず、浅いところと深いところでは約5桁透水係数が異なっているという結果が得られていることを紹介しました。では、個々のボーリング孔での各測定区間における透水係数の測定値のばらつきはどうなっているのでしょうか。

図-1 大空洞掘削時の透水試験および割れ目の調査例
図-1は、神岡鉱山内に掘削された地下大空洞の側壁に設けられたボーリング孔を利用して、ボアホールスキャナによる孔内割れ目観測と透水試験を実施した結果を示しています1)。ボーリング孔の長さは約40mですが、測定は28mの区間について実施しています。この図では、開口幅1.0mm以上の割れ目を「開口割れ目」としています。空洞の掘削の進行に伴う周辺岩盤の透水性の変化を調べることを目的にしていましたので、計3回透水試験を実施しています。測定区間長は、深度11.8mから31.8mまでの区間では、4.0m、深度31.8mから深度39.8mまでの区間では2.0mとしています。空洞掘削の進行に伴う周辺岩盤の透水性変化については別の機会に述べることにし、今回は、空洞の掘削前に実施した第1回目の測定だけに注目することにします。最も透水係数が小さい区間では10-12m/sのオーダー、最も透水係数が大きい区間では10-7m/sのオーダーを示しており、透水係数の分布範囲は5桁に及んでいることがわかります。透水係数が最も小さい値を示している深度11.8mから19.8mまでの区間では、透水係数が小さすぎて正確な値が測定できなかったので、測定下限値である5×10-12m/sとしたものであり、実際にはこの区間の透水係数はもっと小さいことを考慮すると、透水係数の分布範囲はさらに広がることになります。
不連続性岩盤を対象として、私自身が今までに実施した透水試験例では、図-1に示したように、測定区間毎の透水係数のばらつきが大きい場合が多く、そのばらつきが1桁または2桁程度という例はわずかしかありませんでした。一般に、不連続性岩盤と呼ばれる岩盤の透水係数は、岩盤内に存在する様々な割れ目の透水性によって支配されており、各測定区間内に存在するき裂の密度や開口幅は様々ですので、このように、同一ボーリング孔内における測定であっても、区間毎に透水係数の値が異なるのは当然であると考えられます。
不連続性岩盤の透水係数の測定値のように、大きくばらついている値についての平均値を求める場合は、その求め方によって値が大きく異なることが知られています。したがって、透水試験結果に基づいて岩盤の等価な透水係数を推定する場合には、この点を十分に考慮する必要があります2)。
1) 木下直人,石井 卓,安部 透,竹村友之 : 空洞掘削に伴う周辺不連続性岩盤の透水特性変化,第27回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集, pp.206-210,1996.
2) 下茂道人,亀村勝美:測定値における分布を考慮した岩盤の平均透水係数の予測手法について,第7回岩の力学国内シンポジウム講演論文集, pp.229-234, 1987.