コラム

岩石・岩盤の透水係数(その2)

実験編/第17回担当:木下直人(2005.01)


一般に,不連続性岩盤と呼ばれる岩盤の透水係数は,岩盤内の様々な割れ目の透水性によって支配されていることはよく知られています。したがって,このような岩盤では,割れ目のない岩石試料を用いて室内において透水試験を実施しても,実際の岩盤の透水係数を推測することはできません。では,実際の岩盤の透水係数と室内において岩石の透水試験を行うことによって求めた透水係数とではどのくらい異なるのでしょうか。


表-1 岩石の透水係数と岩盤の透水係数の比較
表-1 岩石の透水係数と岩盤の透水係数の比較1)

表-1は,様々な岩種について,室内試験によって得られた透水係数と,原位置試験によって得られた透水係数の比較例をまとめたものです1)。花崗岩,玄武岩といった火成岩や石灰岩(結晶質),片岩といった変成岩の場合,室内試験では非常に小さい透水係数の値を示すことが多いのに対して,原位置試験では大きな透水性を示すことが多く,両者の差は非常に大きくなっています。それに対して,砂岩や頁岩といった堆積岩では,両者の差は相対的に小さくなっています。


私も,岐阜県の神岡鉱山において,室内試験によって得られた透水係数と原位置試験によって得られた透水係数を比較してみたことがあります。神岡鉱山は,かつては国内最大の鉛・亜鉛鉱山として知られていましたが,近年は,東京大学の宇宙素粒子研究施設「スーパーカミオカンデ」や東北大学のニュートリノ観測装置「カムランド」が設置されていることで脚光を浴びています。図-1は,鉱山内の様々な深度(A~E地点およびSK地点)において,ボーリング孔を利用して,単孔式透水試験によって求められた岩盤の透水係数と室内試験によって求められた岩石の透水係数とを比較してみた結果です2)。最も浅い地点の深度は150m,最も深い地点の深度は1000mです。付近の地質は,主に「飛騨変成岩」と呼ばれる片麻岩と「混成型花崗岩」と呼ばれる花崗岩質の変成岩からなり,比較的一様な岩盤が浅部から地下深部まで分布しています。透水試験を実施する地点としては,大規模な断層を避け,幅が数cm以下の小規模な割れ目だけが存在するところを選んでいます。ただし,SK地点(スーパーカミオカンデ)だけは,幅が数cm以上の割れ目を含み透水係数が大きい区間についても試験を行いましたので,二つの区間に分けて透水係数を別々に求めています。


図-1 神岡鉱山における岩石と岩盤の透水係数の比較
図-1 神岡鉱山における岩石と岩盤の透水係数の比較2)

室内透水試験結果によれば,深度660mの地点から採取した岩石の透水係数は,微細なクラックが発達しているため,やや透水係数が大きく,10-13m/sから10-12m/sのオーダーの値を示していますが,それ以外の地点から採取した岩石の透水係数は,いずれも採取深度にかかわりなく,10-14m/sから10-13m/sのオーダーの値を示しています。一方,岩盤の透水係数は,SK地点の良好でない岩盤を除き,良好な岩盤だけに限定すれば,深度の増大に伴って大幅に低下しており,最も深度の浅い地点と最も深い地点とを比較すると,後者の方が4~5桁透水係数が小さくなっています。割れ目のない岩石の透水係数は深度によってほとんど変化しませんので,岩盤の透水係数が深度によって変化するのは,深くなるにしたがって,岩盤の透水性に対する割れ目の影響が小さくなっていくためであると考えられます。


室内試験によって得られた透水係数と原位置試験によって得られた透水係数を比較すると,深度が浅い地点では約6桁,最も深度が深く,両者の差が小さい地点でも,1桁以上岩盤の透水係数の方が大きな値を示しています。したがって,この試験例では,岩盤の透水性は,深さ1km程度までであれば,割れ目の透水性だけで決定されているとみなすことができます。




参考文献
1) R. E. グッドマン著(大西有三,谷本親伯訳):わかりやすい岩盤力学,鹿島出版会,1984.
2) 木下直人, 安部 透, 竹村友之, 横本誠一:原位置透水試験による周辺岩盤の水理特性の調査,第25回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集, pp.481-485, 1993.