コラム

岩石・岩盤の透水係数(その1)

実験編/第16回担当:木下直人(2004.09)


前回までは、11回にわたって岩石・岩盤の熱特性について述べてきました。今回からは、岩石・岩盤の透水特性を扱いたいと思います。


図-1 岩石・岩盤の透水係数
図-1 岩石・岩盤の透水係数1)

図-1は、室内および現場透水試験によって得られた、いろいろな岩石・岩盤の透水係数の分布範囲を示したものです1)。最初この図を見たときは、まだ、自分で透水試験を行ったこともなく、また岩盤地下水に関する知識が乏しい頃だったこともあって、正直なところ、完全に私の理解の範囲を超えていました。それは、透水係数の分布範囲が、10-21cm/sから10-1cm/sまで、20桁に及んでいることです。岩盤工学の分野で通常扱っている物性値の中で、これだけ幅広い分布を示している例を私は他に知りません。例えば、岩石・岩盤の強度・変形特性や熱特性を表す物性値(一軸圧縮強度、弾性係数、熱伝導率など)の分布範囲は2~3桁程度です。


私自身が直接室内および現場において測定したことがある透水係数の範囲は、室内では10-13から10-6m/sのオーダー、原位置では10-12から10-5m/sのオーダーです。室内においても、原位置においても、測定範囲は8桁に及んでいますので、実際の測定時には様々な工夫が必要になります。それでも、図-1に示されている透水係数の分布範囲と比較してみますと、私が測定したことのある透水係数の範囲は、まだ全分布範囲の半分にも及ばないということであり、私にとっては、どのようにして透水係数を測定するかさえ分かっていない範囲がかなり広く存在していることになります。


岩石・岩盤の透水性を表すのに、「透水係数」を用いる場合と、「固有透過係数(固有透過率、絶対浸透率)」を用いる場合とがあります。透水係数を表す単位としては、通常m/s(cm/s)が、また、固有透過係数を表す単位としては、通常darcy(ダルシー)またはm2(cm2)が用いられています。それらの定義は以下のようになっています。


・透水係数 1 m/s
流量 Q=1 m3/s、断面積 A=1 m2、長さ L=1m、水頭差 Δh=1 mのときの透水係数


・固有透過係数 1 darcy
流量 Q=1 cm3/s、液体の粘性係数 μ=1センチポアズ=0.01 ポアズ(poise)、断面積 A=1 cm2、長さ L=1cm、差圧 ΔP=1 atmのときの固有透過係数


・固有透過係数 1 cm2
Q=1 cm3/s、μ=1ポアズ、A=1 cm2、長さ L=1cm、ΔP=1 dyn/cm2のときの固有透過係数


透水係数kと固有透過係数k0との間には以下のような関係があります。


式(1) (1)

ここで、μは粘性係数、ρは密度、νは動粘性係数、gは重力加速度です。固有透過係数は媒体だけの性質に依存するのに対して、透水係数は媒体と流体の両方の性質に依存しています。水の動粘性係数は、図-2に示すように、温度上昇に伴って急激に減少しており、15℃付近では、温度が5~10℃違っただけで、動粘性係数の値はかなり変化してしまうことがわかります。日本工業規格「土の透水試験方法」(JIS A 1218)では、温度により粘性係数が異なることを考慮して、試験時に水温を計測し、温度による粘性係数の違いに対する補正を行うことによって、温度15℃に対する透水係数を求めて報告することになっています。


図-2 水の動粘性係数と温度の関係
図-2 水の動粘性係数と温度の関係



参考文献
1) 佐藤邦明,渡辺邦夫:岩盤の透水性に与える種々のCrack性状の影響,埼玉大学工学部地盤水理年報,Vol.4,1978.