
数値解析を使った問題解決法(トンネル番外編1)
トンネル編を続けているうちに、熱心な読者よりいくつかご質問をいただきました。同じように悩まれている方も多いと思いますので、今回と次回はご質問に答える形にしたいと思います。皆様のご参考になれば幸いです。
ご質問1)
近年のコンピュータハードの発達により、現状ではかなり三次元解析が手短に行える環境にあることが紹介されています。そうだとすると、当初設計や施工時の切羽での安定性を検討する際には、二次元モデルによるトンネルの解析を考えるよりも、全て三次元解析で行えばよいように思われますが。
筆者の考え)
三次元解析は、実際のトンネルを施工すると同じように解析することができ、いわば、トンネル施工の机上シミュレーションを可能とする技術だと思います。仮に完全なシミュレーションを「設計段階」で行うことを想像すると、いかにこれが難しいかがわかります。
例えば、三次元的な地層分布が表現できるか、各地層の物性値を推定することができるか、鋼製支保工が機能するタイミングはいつか、吹付けコンクリートの剛性はどう変化していくのか、三次元的な初期応力状態が推定できるか、近接構造物の存在がどの程度初期応力状態に影響を及ぼしているか、事前に行った水抜きボーリングの効果はどう評価するか、などです。
このような問題に直面すれば、とりあえず地層は二次元的に分布していると考えよう、物性は文献か弾性波速度から推定しよう、支保工も吹付けも切羽から機能すると考えよう、初期応力は土被りとポアソン比から推定しよう、水の影響は全応力解析として取り扱おう、などと考えると思います。これらは、できるだけ二次元的にモデルを作ろう、ということですから、二次元解析で設計を行うのとだんだん変わらなくなってきます。
すなわち、せっかく三次元解析を行うのですから、これと同じレベルで物性値や初期応力、施工方法のモデル化ができないと解析を行う意味が無くなってしまうということです。また、コンピュータが高速化したといっても、三次元モデルを作り掘削過程を追っていくには、相当の労力が必要です。したがって、設計段階では二次元解析を用いることになると思います。設計段階では不確定な材料が多いので、物性や初期応力にいわゆる「安全側」の値を用い、これをもとに二次元解析を行うことで、安定性に配慮した設計を行うことは工学的に意義があると思います。
現在、三次元解析が多く用いられているのは、次のような場合の設計検討です。
・トンネル坑口の安定性検討(図-1)
・切羽に対する補強工や先受けの効果に関する検討
・トンネル接合部の安定性検討
・近接構造物に対するトンネル掘進の影響評価

図-1 トンネル坑口部の検討例
このような場合に共通するのは、トンネル全体にわたる設計ではなくて、三次元的な応力分布を評価する必要がある検討であることです。これらの検討では、明らかに三次元解析が威力を発揮します。
ご質問2)
有限要素法で解析することを考えてモデル化をする際にいつも頭を悩ませることは、どの程度の大きさに要素分割するかということです。また、二次元、三次元解析の場合には使い分けているのでしょうか。
筆者の考え)
有限要素法は、要素を細かくすればするほど理論解に近づくという「収束性」と呼ばれる特性を持っています。かといって、要素分割が細かすぎると計算時間が増えてしまいます。解の精度と計算時間はトレードオフの関係にあるわけです。
例えば、半径aの円形トンネルを掘削する問題では、トンネル周辺の応力変化は次式で表されます。

簡単な例をあげて説明すると、要素内の応力が一定となる「定ひずみ要素」を用いた場合には、応力分布は概ね(図-2)のように近似されます。壁面に一番近い要素の大きさをΔrとすれば、要素中心の応力は、つぎのようになります。

図-2 トンネル周囲の応力変化と要素分割

壁面では本来この値が1でなければならないのですが、これを要素中心の応力で近似したために、これだけの誤差が発生したわけです。もし、誤差を10%に抑えたければ、

となり、トンネル半径の1/10程度の要素を用いれば良いことになります。この計算は概略のものであり、また、実際にはより高次の要素が用いられるので、誤差はこれよりも小さくなりますが、一つの参考になると思います。また、応力変化を考えれば、要素の大きさはトンネルから離れるにつれ、距離の2乗の比率で大きくすることができます。
設計にあたっては、この誤差が生ずることを前提にして、例えば安全率に1.1をかけておく必要があります。しかし、要素分割によるこのような誤差は、物性や初期応力の誤差に比べると格段に小さいものです。むしろ、これらの評価精度を向上させることこそ重要であると考えます。
なお、有限要素法においては、要素の形状が正方形に近いことが望ましいので、円周方向の分割数も自ずと決定できると思います。三次元解析においても、これまで述べた傾向は同じです。ただし、偶角部や剛性の急変する場所など、応力変化が大きいところは、できるだけ要素分割を小さくして誤差を抑えるのが基本です。ここで示した円形トンネルの場合と同じように、応力変化の傾向を確かめながら、要素分割をやり直すことをお薦めします。弊社製品3D-σなどでは、このことを考慮して、要素分割数を簡単に変更することができる機能を備えています。