
岩盤の熱特性の評価(その2) 熱膨張特性
前回は、熱伝導解析を行う際に必要な物性値である、岩盤の熱伝導率と比熱の評価方法について述べました。今回は、熱応力解析を行う際に必要となる岩盤の熱膨張特性の評価方法について述べたいと思います。

図-1 低温下における岩石の線膨張ひずみと温度の関係の測定例1)

図-2 図-1に示した室内試験結果に基づく岩盤の熱膨張特性の評価1)
図-1および図-2は、LPG岩盤内貯蔵空洞を対象にして熱応力解析を行った際の、岩盤の熱膨張特性の評価方法を示したものです1)。図-1(a)は乾燥状態、(b)は含水飽和状態において、それぞれ間隙率(n)の異なる2種類の岩石(花崗岩)について線膨張ひずみと温度の関係を室内試験によって求めた結果です。図-2は、このような室内試験の結果に基づいて評価した岩盤の線膨張ひずみと温度の関係を示しています。この例を参考にして、岩盤の熱膨張特性の評価方法について考えてみたいと思います。
この例では、岩盤の熱膨張特性を表すのに線膨張ひずみ(thermal expansion)を用いていますが、もちろん線膨張係数を用いることもあります。
今まで実施されている岩盤を対象とした熱応力解析では、ほぼ例外なく、上に示した例と同じように、室内試験で得られた岩石の熱膨張特性をそのまま岩盤としての熱膨張特性として評価しています。しかし、岩石の熱膨張特性と、き裂を含む岩盤としての熱膨張特性が一致するのか、それとも異なるのかについては、実際のところよくわかっていません。それ以外の評価方法が存在しないため、上に示した考え方に基づいて岩盤の熱物性の評価を行っているというのが本当のところだと思います。このような基本的な問題についての検討があまり行われていない背景には、原位置において、岩盤の熱膨張特性を直接調べたり、岩盤の熱応力を直接測定したりすることが容易ではないため、岩盤の熱膨張特性の評価方法の妥当性を検証することが非常に困難だという事情があります。わが国では、最近になって、この問題について、実測データに基づいて検討しようという試みが行われるようになりました2)。
低温において熱応力解析を行う際の固有の問題として、岩盤の凍結膨張現象があります。岩盤の凍結膨張現象を考慮するか否かによって、熱応力解析の結果は全く異なってしまいますので、この問題は非常に重要だと考えられます。上に示した例でも、熱応力に対する凍結膨張現象の影響は非常に大きいとして、乾燥状態(凍結膨張現象が生じない)と含水飽和状態(凍結膨張現象が生じる)では、全く異なる線膨張ひずみ~温度関係を用いています。
今までに紹介した岩石の熱膨張特性に関する測定結果からも明らかなように、岩石の線膨張係数は温度によって大きく変化する例が多くみられます。このような場合に、線膨張係数は温度に依存しないと仮定して、室温付近で測定した値を用いて解析を行うことは好ましくありません3)。上に示した例でも、熱膨張特性の温度依存性を考慮した解析を実施しています。
1) 石塚与志雄, 木下直人, 奥野哲夫:LPG岩盤内貯蔵空洞の熱応力に対する安定性の検討,土木学会論文集,第370 号/ Ⅲ-5, pp.243-250,1986.
2) 八田敏行,熊坂博夫,木下直人,安部 透:天然のき裂を含む花崗岩質岩石の熱膨張特性,土木学会論文集,第750号/Ⅲ-65, pp.183-191,2003.
3) 木下直人,若林成樹,石田 毅,中川浩二:高温下における岩石ブロックの熱応力による破壊挙動,土木学会論文集,第624号/Ⅲ-47, pp.101-112,1999.