
数値解析を使った問題解決法(トンネル編その3)
トンネルや地下空洞の設計では、地質学的な、あるいは力学的な情報が十分に得られない場合があります。例えば、土被りが大きく地質状況を詳細に調査することができない場合や、トンネルが長く全線にわたる調査が難しい場合などです。このような場合には、施工中に補強工の選定などを柔軟にやり直す、いわゆる情報化施工が行われます。情報化施工のより具体的な目的は、事前に行われた調査や設計との「ずれ」を常に観測することです。「ずれ」が大きい場合には、切羽面の崩壊などにより作業員に危険が及んだり、補強工による地盤の安定化が図れない事態が予想されます。これを回避するために、データを十分吟味した上で何らかの対策を施します。
調査や設計との「ずれ」を評価するためには、施工前に管理基準を設定しておくのが一般的です。施工中に行う計測や観察結果は、この管理基準と比較されて「ずれ」の大きさが評価されます。「ずれ」が大きい場合には、設計の見直しも含め、種々の対応がなされます。より多くの情報が必要であれば、先進ボーリングなどの追加調査を行うことも検討されます。
施工管理基準は、多くの場合トンネル壁面の変形量です。予測との「ずれ」が大きくなるとは、思ったよりも変形が大きくなることで、補強工の応力が増加したり地盤の安定性が損なわれる可能性を示唆するものです。このような場合には、トンネル壁面の変形を抑制できる補強工に変更する必要があります。
一般のトンネルでは、ベンチ工法やCD工法などのように分割掘削が行われたり、先受け工法のような補助工法が採用されたりするために、補強工の変形抑制効果を求めるのは簡単ではありません。また、変形抑制効果は地盤の剛性により変化しますし、仮に変形抑制効果の高い補強工を用いたとしても、今度は補強工の応力が大きくなり、許容応力に達していることも考えられます。
このような場合は、有限要素解析を用い、あらかじめ補強工の変形抑制率を求めておくことが考えられます。例えば、現在の岩盤の剛性や初期応力などが、試験や計測などで推定されている場合には、有限要素法による弾性解析によって、支保パターンごとの変位抑制比率を求めておきます(図-1、図-2)。岩盤の種類が変化するような場合には、さらに想定される岩盤の剛性ごとに、変位抑制比率を求めます。これを用いて、変位が施工管理基準値内に収まるような支保パターンを選択することができます。また、解析では各支保メンバーごとの応力も計算されることから、補強工応力と補強工剛性の関係も求めることができ、補強工の耐力についても検討することができます。

図-1 有限要素解析の一例

図-2 支保パターンと変位抑制比率
ここで述べたような変位の管理を行う上では、扱いやすいソフトウェアを活用して、変位の計測やデータの分析を短時間で行うことも、施工の効率化の観点から重要と考えます。また、トンネル前方の岩盤の状態を推定したり、掘削直後の変位速度より最終変位を予測することで、補強工の選定を的確に行うことができると考えます。切羽の画像情報から岩盤の状態を推定する方法や、いわゆるのみ下がりから推定する方法なども検討されています。地層科学研究所では、Geo-NotesやDRISSといったソフトウェアでこれらを実現することをおすすめしています(図-3)。これらによって得られた情報と、有限要素解析を組み合わせて、柔軟で迅速な施工管理が可能になると考えております。

図-3 Geo-Notesの施工情報表示画面
次回からは、斜面を題材として数値解析による問題解決方法を述べていきたいと思います。