
岩盤の熱特性の評価(その1) 熱伝導率と比熱
岩盤を対象にして熱伝導解析を行う際には、物性値として岩盤の熱伝導率や比熱の値を入力する必要があります。今回は、このような解析に必要な熱伝導率や比熱の値の求め方について考えてみたいと思います。
岩盤には必ず断層や節理などの割れ目が含まれていますので、その挙動は岩石そのもの(基質部)の特性と割れ目の特性の複合したものになります。岩盤の力学特性に関しては、一般に、軟岩では割れ目の影響が小さく、基質部を中心とした評価が可能であるのに対して、硬岩では基質部よりも割れ目の影響が大きいため、原位置における割れ目の評価が重要になると考えられています。
岩盤の熱特性(熱伝導率や比熱)を評価することは、少なくとも硬岩に関しては、力学特性を評価するよりもはるかに容易であると考えられています。それは、岩石基質部の熱伝導率や比熱の値がそのまま岩盤としての値にほぼ等しいと考えられるからです。したがって、原位置から採取した試料を用いて、室内で熱伝導率と比熱の測定を行い、得られた値をそのまま解析用の入力値とすることができるということになります。言い換えれば、熱特性に対する割れ目の影響は、一般に無視できるほど小さいということになります。こうした結論は、1970年代の後半から1980年代にかけて、スウェーデンやアメリカなどにおいて、放射性廃棄物処分技術の開発を目的として行われた多くの岩盤加熱実験によって得られました。硬岩を対象とした加熱実験では、室内試験によって得られた熱伝導率や比熱の値をそのまま用いて熱伝導解析を行い、岩盤内温度分布の実測値と比較しており、どの実験でも両者はよく一致するという結果が得られています。
間隙率の大きい軟岩からなる岩盤の場合には、その熱特性は含水状態の影響を顕著に受けるということに留意する必要があります。 図-1 と図-2 は、それぞれ砂岩と凝灰岩の熱伝導率に関する、主として海外における既往の測定データを示したものです1)が、全体的に含水飽和状態における岩石の熱伝導率は乾燥状態におけるそれよりも明らかに大きいことがわかります。通常、室内試験によって熱伝導率や比熱を求める場合には、乾燥状態または室内放置状態の試料を用いることが多いと思われますが、これらの図は、実際の岩盤が水で飽和されている場合には、その影響を考慮する必要があるということを示しています。したがって、そのような場合には、含水飽和状態の試料を用いて熱伝導率の測定を行うことが望ましいということになります。

図-1 砂岩の熱伝導率に対する間隙率と含水状態の影響

図-2 凝灰岩の熱伝導率に対する間隙率と含水状態の影響
比熱に関しても基本的には同じことが言えます。ただし、熱伝導率とは異なり、間隙率がわかっていれば、乾燥状態の比熱の値から、容易にかつ正確に飽和状態の比熱の値を計算によって求めることができますので、比熱の測定に際して、含水飽和状態の試料を用いることにこだわる必要はありません。
岩盤の力学特性や透水特性と同様に、熱特性に関しても、原位置において岩盤を対象にして直接容易にかつ正確に測定することができるのであれば、そのようにして得られた値のほうが、室内試験によって得られた値よりも、解析用の入力値としての信頼性は高いと考えられます。そこで、原位置において直接岩盤の熱特性を測定する方法も提案されています2),3)。
1) 北野晃一, 新 孝一, 木下直人, 奥野哲夫:高温下岩石の力学特性,熱特性および透水特性に関する文献調査,応用地質,Vol.29, No.3, pp.242-253,1988.
2) 羽根 義,木下直人,石井 卓,藤井石根:原位置での温度伝導率の測定(その1:測定理論および従来の測定法との比較),第16回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集, pp.66-70,1984.
3) 若林成樹, 木下直人, 羽根 義:離散系解を用いた原位置での温度伝導率測定,土木学会第39回年次学術講演会講演概要集, 第3部,pp.653-654,1984.