コラム

低温下における岩石の力学特性

実験編/第13回担当:木下直人(2003.09)


前回は,低温下における岩石の熱膨張特性と、それを支配する要因について記しました。今回は、低温下における岩石の力学特性について紹介したいと思います。


低温下における花崗岩と安山岩の圧裂引張強度を調べた例1)を図-1に、花崗岩の弾性波速度(P波速度とS波速度)を測定した例2)を図-2に示します。


a)沢入花崗岩
a)沢入花崗岩
b)江持安山岩
b)江持安山岩
図-1 岩石の圧裂引張強度と温度の関

図-2 花崗岩の弾性波速度と温度の関係
図-2 花崗岩の弾性波速度と温度の関係

低温下における岩石の力学特性は、温度範囲によってそれに影響を与える因子が異なるため、以下の3つの領域に分けて考えることができます。


(1) 領域1
温度が0℃以下になり、間隙水の凍結の進行に伴って岩石の力学特性が変化する段階です。前回記しましたように、間隙水は0℃で全てが凍結するわけではなく、かなりの低温になるまで凍結現象は続きます。例えば、前回紹介した大谷凝灰岩では-20~-25℃程度まで、また図に示した花崗岩では-5~-10℃程度までの温度範囲では、間隙水の凍結の進行が岩石の特性に対して支配的な影響を及ぼしていると考えられます。
間隙水が凍結すると、氷による鉱物粒子の膠着作用や氷による荷重の分担により、図-1と図-2に示すように、含水飽和した岩石の強度や弾性波速度( 特にS波速度)は増加します。特に、間隙率の大きい岩石、アスペクト比の小さな間隙(クラック状の間隙)を多く含む岩石の強度や弾性波速度は顕著に増加します。一方、乾燥した岩石の場合は、間隙水の凍結の影響があまりありませんので、その強度、弾性係数や弾性波速度はほとんど変化しません。


(2) 領域2
間隙水の凍結が終了するかまたはその影響が無視できるようになり、岩石を構成する鉱物粒子と、間隙を充填した氷の複合体としての特性を示す段階です。鉱物粒子の強度や弾性係数は、温度が低下してもほとんど変化しませんが、氷の強度や弾性係数は温度の低下とともに増加します。それに伴って、鉱物粒子と氷の複合体としての岩石の強度や弾性係数も、温度の低下とともに増加します。一方、乾燥した岩石の強度や弾性係数は、温度が低下してもほとんど変化しないかまたはわずかに増加する程度です。


(3) 領域3
領域3では、鉱物粒子間または鉱物粒子と氷との熱膨張率の相違による微小クラックの発生が岩石の特性に大きな影響を与える段階です。そのため、微小クラック発生の影響を受けやすい岩石の引張強度や弾性波速度は、領域1、2とは異なり、温度の低下に伴って低下するか又はほとんど変化しません。
私は、低温における岩石の特性に関する実験を開始した頃は、このような領域が存在することは全く予想していませんでした。しかし、実際に実験を行ってみますと、ある温度(図-1および図-2に示す例では-75~-100℃)以下になると、温度低下に伴って強度や弾性波速度がほぼ一定の値を示すかまたは低下するという結果が得られました。そして、その温度は、図-33)に示すように、AE発生率が急激に増加する温度と対応していることがわかりました。調べてみますと、ある温度以下になると岩石の強度や弾性係数が増加しなくなるか又は低下する現象は、Mellor4)によっても得られていました。
ある温度以下になると、岩石の強度や弾性波速度が低下するかまたはほとんど変化しなくなる機構としては以下のようなことが考えられます。氷の熱膨張率と鉱物粒子のそれとを比較すると、前者の方が約1桁大きいことが知られています。したがって、間隙水が凍結した時点では、凍結膨張により氷の内部には圧縮応力が作用していても、温度の低下とともに氷には引張応力が作用するようになります。そしてある温度になると氷の引張強度を超え、微小クラックが発生します。その発生量は温度の低下に伴って増加します。したがって、微小クラックが発生しやすい岩石ほど相対的に高い温度で領域3に移行すると考えられます。また、鉱物粒子間の熱膨張率の不一致により発生する微小クラックも、温度の低下に伴って増加しますので、やはり強度や弾性係数を低下させる方向で影響を及ぼしていると考えられます。


このように、低温下における岩石の力学特性に影響を与える因子として重要なのは、熱膨張特性と同様に、間隙水の凍結の進行と、鉱物粒子と氷又は鉱物粒子間の熱膨張率の不一致による微小クラックの発生の2つであると考えられます。


図-3 冷却に伴う花崗岩のAE発生挙動
図-3 冷却に伴う花崗岩のAE発生挙動



参考文献
1) 松永 烈・厨川道雄・木下直人:岩石の低温における機械的性質 -LNGの地下備蓄に関する基礎的研究(第1報)-,日本鉱業会誌,Vol.97, No.1120, pp.421 ~436, 1981.
2) 木下直人:低温における岩石の弾性波速度と弾性定数,土木学会第37回年次学術講演会講演概要集, 第3部,pp.241-242, 1982.
3) 木下直人:温度変化を有する岩石のAE発生特性,現場技術者のためのAE技術の応用,アイピーシー社,pp.172-180, 1994.
4) Mellor, M. : Strength and deformability of rocks at low temperatures, CRREL Research Rep., 294, 1971.