コラム

連成解析ってなんだ?(その2・地下水流れと物質移行)

数値解析/有限要素編/第10回担当:里 優(2003.04)


二つ以上の現象が、お互い同士何らかの相互作用を及ぼしあう場合には、連成解析と呼ばれる手法を用いることを、前回説明しました。今回は、地下水流れと、地下水中を流れる物質の相互作用を取り扱う、連成解析についてご説明します。


最近は、土壌汚染や地下水汚染など、環境保全に関連する問題がクローズアップされています。これらの問題では、汚染物質などが地下水によって運ばれ、汚染源から遠いところまで達してしまい、広い環境の汚染に繋がることが懸念されます。したがって、まず地下水の流れを予測し、次にこの地下水流れによって運搬される物質の拡散の様子を予測します。地下水流れの解析については、過去のFeel and Thinkでご紹介しましたので、ここでは、主に物質の移行、拡散の解析について説明しましょう。


地下水流れによって物質が運ばれるイメージは、子供の頃によくやった、川に笹舟を浮かべ、川の流れによって笹舟が流れていくイメージを持っていただければ十分です(図-1)。これが一艘であれば、川の流れとともに海まで静かに運ばれるのでしょうが、もし大量に流したらどうなるでしょう。川の流れは、川底の形状などの影響を受け、必ずしも均一ではありません。また、笹舟の方向もばらばらだとすれば、進む方角も一定ではないかもしれません。その結果、笹舟同士は衝突、離反を繰り返し、最初は小さな範囲を占めていたものが、大きな範囲に拡大していくでしょう。すなわち、川に浮かべた笹舟の集団は、流れることによって次第に拡散していくのです。


図-1 笹舟(http://www2.kimama.com/play/data/sasabune/sasabune.aspより借用)
図-1 笹舟(http://www2.kimama.com/play/data/sasabune/sasabune.aspより借用)

地下水流れでもこれと同じことが起こります。特に、地下水は地盤の空隙を流れているのですから、地下水の流れている速度は空隙により異なっているはずです。また、空隙の形状によっては、地下水の流れる方向も変化します。したがって、地下水によって運ばれる物質も自然と拡散していきます。


この拡散の仕方には特徴があります。今度は、マラソンの集団をイメージしてみてください(図-2)。マラソンランナーは、走っているうちに横のランナーとの接触を避けるために、横方向に拡散していきます。一方、ランナーの中には早いランナーと遅いランナーがいますから、同時にスタートしても前後方向に集団は拡散していきます。すなわち、走る方向へは速度の違いにより拡散していき、横方向へは走る経路の違いで拡散していくわけです。


図-2 マラソン(http://plaza9.mbn.or.jp/~01saijo/hakonemain.htmより借用)
図-2 マラソン(http://plaza9.mbn.or.jp/~01saijo/hakonemain.htmより借用)

これらは見かけ上の拡散などと呼ばれます。このほかに、分子拡散と呼ばれる現象も物質の移動に関与します。水のなかにたらした赤インクが拡散していく、あれです。水の分子運動が赤インクの分子に衝突し、集団をばらばらにしていくことによって生ずる拡散です。


まとめると、地下水によって運搬される物質の移行は、次のような式で表現することができます。


物質量の変化=流れと平行方向の拡散による量変化+流れと垂直方向の拡散による量変化+分子拡散による量変化 +流れによる直接的な運搬+沈殿や吸着などによる量変化、など


私どもでは、G-TRAN/3Dと呼んでいる製品に、地下水流れと物質移行のシミュレーションを行う機能を持たせています。図-3と図-4に解析例を示します。地下水流れと物質移行の解析では、例えばトレーサー試験のシミュレーションなどに用いることができるほかに、杭に用いたモルタルの拡散、地熱を利用したヒートポンプなどの性能評価にも応用でき、土壌汚染の分野や環境、エネルギーの分野などへの貢献が期待できます。


図-3 孔周囲の地下水流れの例
図-3 孔周囲の地下水流れの例

図-4 地下水流れによる物質の拡散
図-4 地下水流れによる物質の拡散