コラム

岩石の熱膨張・収縮特性の支配要因(その3)

実験編/第11回担当:木下直人(2003.02)


今回は、砂岩や凝灰岩といった堆積岩の熱膨張特性の支配要因について考えてみたいと思います。 堆積岩の熱膨張挙動の最も大きな特徴は、硬岩と軟岩では熱膨張挙動が全く異なるということです。


図-1 硬岩に属する凝灰岩の熱膨張挙動
図-1 硬岩に属する凝灰岩の熱膨張挙動

図-1は、硬岩に属する2種類の凝灰岩の熱膨張特性を測定した結果を示しています。凝灰岩Aの一軸圧縮強度は約150MPa、凝灰岩Bのそれは約90MPaです。いずれも温度の上昇に伴って線膨張係数は増加しています。そして、残留ひずみは小さく、正の値(膨張ひずみ)を示しています。このような特徴は花崗岩のそれと同じであり、したがって、熱膨張特性の支配要因も、基本的には花崗岩のそれと同じであると考えられます。


図-2 軟岩に属する凝灰岩(大谷凝灰岩)の熱膨張・収縮挙動(乾燥状態)
図-2 軟岩に属する凝灰岩(大谷凝灰岩)の熱膨張・収縮挙動(乾燥状態)

図-3 軟岩に属する凝灰岩(大谷凝灰岩)の熱膨張・収縮挙動(含水飽和状態)
図-3 軟岩に属する凝灰岩(大谷凝灰岩)の熱膨張・収縮挙動(含水飽和状態)

図-2は、軟岩に属する大谷凝灰岩(「大谷石」として知られている)の熱膨張挙動を、乾燥試料を用いて測定した結果です。また、図-3は、含水飽和試料(高温になっても飽和状態を維持できるだけの間隙水圧を作用させた状態の試料)を用いて測定した結果です。乾燥状態の場合、ある温度以上になると、試料は収縮し、線膨張係数は負の値を示しています。温度が200℃以上になっても、拘束圧が大きい場合には、さらに試料は収縮を続けています。そして、いったん収縮した試料は、冷却過程においても元に戻らず、負の残留ひずみ(収縮ひずみ)を生じています。一方、含水飽和状態では、乾燥状態の場合とは明らかに異なっており、温度上昇に伴って試料が収縮する現象は全くみられません。このように、含水状態によって、熱膨張・収縮挙動が全く異なるということも、軟岩の大きな特徴の一つです。


100℃前後のある温度以上になると試料が収縮し、線膨張係数が負の値を示すという現象は、乾燥試料を用いた場合には、軟岩に共通してみられる現象であり、特定の鉱物を含んでいるためではありません。試料が収縮を開始する温度は低強度の岩石ほど低くなる傾向がみられます。図-2に示した大谷凝灰岩は、軟岩としては強度が高い岩石なので、比較的高い温度になってから試料は収縮を開始しています。試料が収縮するメカニズムとしては、吸着水等の脱水現象が考えられます。デシケータ乾燥した岩石の場合、完全に乾燥しているわけではなく、吸着水等の水分が含まれています。このような岩石を昇温することによって乾燥させると、サクション(負の圧力)が大きくなり、粒子同志を引き寄せる力が増大します。軟岩の場合、粒子骨格がまだ強固になっていないので、この影響を受け、試料は全体として収縮します。一方、硬岩の場合は、脱水現象があったとしても、粒子骨格が強固なものになっているので、その影響により岩石が収縮することはないと考えられます。また、軟岩であっても、含水飽和試料を用いた場合には、測定中に脱水現象が生じていませんので、温度上昇に伴って試料が収縮する現象は全くみられません。


もう1種類の脱水による試料の収縮のメカニズムとして、ある特定の鉱物からの脱水による収縮現象が考えられます。例えば、粘土鉱物や沸石のように、ある温度以上になると脱水することによって収縮する鉱物を含んでいる岩石も、高温になると収縮し、線膨張係数が負になることがあります。


軟岩の熱膨張・収縮特性は、温度や含水状態だけでなく、圧力の影響も大きく受けます。図-2に示した大谷凝灰岩の場合、拘束圧が大きくなると、試料が収縮する温度範囲が広がり、収縮量も大きくなっています。また、280℃で一定温度を保持しているときに、拘束圧が大きくなると、試料の収縮現象がみられます。このように、拘束圧が大きくなると、試料の収縮現象が著しくなるのは、試料が押固め作用(Compaction)の影響を受けるためであると考えられます。


以上のように、軟岩の熱膨張・収縮特性に対しては、硬岩とは異なり、「吸着水等の脱水による岩石の収縮」および「押固め作用による岩石の収縮」の二つの要因の影響が非常に大きいと考えられます。




参考文献
1) 木下直人, 安部 透 : 高温下における堆積岩の熱膨張・収縮特性,土木学会論文集,第517号/Ⅲ-31, pp.53-62, 1995.
2) 木下直人,赤川 敏,傳田 篤 : 各種条件下における岩石の力学挙動-軟岩,材料,第45号,第2号,pp.242-248,1996.