
連成解析ってなんだ?(その1)
数値解析業務に携わっている方であれば、最近、連成解析といった言葉を耳にする機会が増えていると思います。英語で言うところの、Coupling Analysisです。意味は、異なる二つの現象を、それぞれの相互作用を考慮して解析する、といったところです。
数値解析はただでさえ難しいのに、二つもまとめてなんてとんでもないという声が聞こえてきそうですが、岩盤工学などの分野では結構役に立つ知識となります。今回は、その第一回目として、さまざまな連成現象について説明したいと思います。
最も身近な連成現象は、熱応力でしょう(図-1)。これは、熱が伝導し温度が変化する現象と、温度の変化によって例えば岩盤が膨張したり収縮したりする現象の組み合わせです。厳密には、両方の現象は分子運動によってもたらされるので連成とは言えないのですが、一般的な数値解析では分けて扱います。

図-1 温度変化と岩盤変形の相互作用
熱の伝導は、エネルギー保存則をもとに支配方程式が記述されます。式はこんな感じになります。
温度変化=(移動した熱量+ひずみによる発熱量)/熱容量
移動した熱量は、熱は温度が高いところから低いところへ移動することをもとに算出します。もう一つ温度変化に関るものは、岩盤のひずみです。気体は、圧縮すると発熱するのはよく知られていますが、岩盤を圧縮しても発熱などはしないと思いがちです。確かに、工学的に加える力程度では発熱しないのですが、地下深部では自重とテクトニックな力によって岩盤はひずみ、発熱してさまざまな続成作用を生じます。
他方、温度変化による岩盤の変形は、次のような式で表されます。
岩盤のひずみ変化=応力変化/剛性+温度変化によるひずみ
岩盤のひずみは、加えられた力によるものと熱膨張によるものの和として与えられるのですが、先に説明したように、加えられた力によるひずみは発熱を招きます。これにより熱の移動が発生し、先の式によって温度の分布が変化します。その結果、熱膨張ひずみが発生します。これが連成現象と呼ばれる所以です。つまり、ひずみが温度変化に影響を及ぼし、温度変化がひずみに影響を及ぼすといった、イタチゴッコが発生するわけです。
工学的な問題では、岩盤に加えられた力による発熱は無視してよいほど小さいので、先の式からは発熱量の項が落ちます。この場合は、熱量の移動のみで温度変化が決まることから、連成現象とは言えなくなります。他方、温度変化によるひずみは大きいので、温度変化があればこのひずみを考慮して解析します。いわゆる熱応力解析と呼ばれる方法です。
もう一つ代表的な連成現象は、地下水流れと変形の相互作用です(図-2)。地下水圧が岩盤の強度に影響を及ぼすのは良く知られていますが、地下水圧が岩盤の変形に影響を及ぼしているのはあまり理解されていないかもしれません。理屈は簡単です。岩盤の空隙に地下水を押し込むことを考えると、押し込まれた地下水は岩盤の空隙を拡張しようとし、これが岩盤全体を膨張させるのです。ちょうど、温度が加わったときの熱膨張と同じです。これは、次のような式で表されます。
岩盤のひずみ変化=応力変化/剛性+地下水の流入出によるひずみ

図-2 地下水流れと岩盤変形の相互作用
地下水の流入出によるひずみは、地下水圧と比例関係にあると近似できますから、これは次のようにも書くことができます。
岩盤のひずみ変化=応力変化/剛性1+地下水圧変化/剛性2
応力変化によるひずみの大きさを与える剛性1と、地下水圧変化によるひずみ変化の大きさを与える剛性2が同じ大きさであれば、上式はいわゆる「有効応力の法則」を表します。
さて、地下水圧も岩盤変形の影響を受けます。岩盤がひずみ空隙の大きさが変化すると、空隙を満たしている地下水の圧力も変化するからです。
地下水圧の変化=地下水の流入出による圧力変化+岩盤のひずみ変化×剛性3
ちょっとややこしいのですが、岩盤に地下水を押し込もうとしますと、地下水が圧縮されますので圧力が高まります。このとき、先の式によって岩盤は膨張します。この膨張によって、まだ押し込んだ地下水が届いていない部分では、地下水が引っ張られ圧力が低下します(図-3)。これにより、地下水の流れが変化し、新たに地下水圧変化による 岩盤のひずみ変化と、岩盤のひずみ変化による地下水圧変化が繰り返されます。温度の場合のイタチゴッコと同じです。

図-3 地下水の押し込みと岩盤の変形
今回は連成現象のうち、熱応力と、地下水と岩盤変形の相互作用について紹介しました。この他には、温度変化と地下水流れの相互作用や、ガスと地下水流れの相互作用などがあります。 これらについては、次回以降にご紹介いたします。