コラム

岩石の熱膨張・収縮特性の支配要因(その2)

実験編/第10回担当:木下直人(2002.10)


前回は、高温下における花崗岩質岩石の熱膨張特性は、主として構成鉱物の熱膨張特性と、鉱物粒子間の熱膨張率の不一致による微小クラックの発生の二つの要因によって支配されていることを示しました。今回は、安山岩の熱膨張特性の支配要因について考えてみたいと思います。


線膨張係数(昇温時)図-1 三城目安山岩の線膨張係数測定結果
線膨張係数(昇温時)図-1 三城目安山岩の線膨張係数測定結果

線膨張係数(昇温時)図-2 小松安山岩の線膨張係数測定結果
線膨張係数(昇温時)図-2 小松安山岩の線膨張係数測定結果

図-1は三城目安山岩(福島県産)の、図-2は小松安山岩(神奈川県産)の線膨張係数を測定した結果です。前々回説明しましたように、三城目安山岩の熱膨張挙動の主な特徴は、50℃付近の温度では、花崗岩質岩石よりも線膨張係数が小さいこと、および250℃前後の温度において、著しく大きな線膨張係数の値を示すことです。小松安山岩も、250℃前後の温度における線膨張係数の値が著しく大きくはないことを除けば、三城目安山岩のそれとほぼ同じです。


三城目安山岩と小松安山岩の鉱物組成を調べてみますと、斜長石と単斜輝石以外に、ガラス質の部分が前者では約36%、後者では約72%あることがわかりました。50℃付近の温度における花崗岩質岩石との線膨張係数の違いは、このような構成鉱物の熱膨張特性の違いに基づいて説明することができます。一般に、安山岩や玄武岩のように、線膨張係数が小さいガラス質の部分が多く、かつ線膨張係数が大きい石英を含んでいない(または少ししか含んでいない)岩石では、常温付近における線膨張係数が小さくなります。


図-2には、ターナー(Turner)の式を用いて岩石の線膨張係数を計算した結果も同時に示しています。170℃以下の温度では、線膨張係数の計算値は、大気圧下における実測値とほぼ一致していることがわかります。したがって、この温度範囲における大気圧下での熱膨張挙動は、主として構成鉱物の熱膨張特性に支配されていること、および、この温度範囲では、鉱物粒子間の熱膨張率の相違による微小クラックが発生しにくく、その影響は小さいことがわかります。


それでは、180℃以上の温度になると、ターナーの式に基づく計算値とは異なる値を示すようになり、特に三城目安山岩の場合には、250℃前後の温度において線膨張係数が著しく大きくなるのはなぜでしょうか。三城目安山岩と小松安山岩には斜長石、単斜輝石およびガラスだけしか含まれていないとすれば、このような現象を説明することができません。そこで、三城目安山岩についてX線分析を行ってみたところ、ガラス質の部分にクリストバライトが含まれていることがわかりました。クリストバライトは、シリカ鉱物の一種であり、石英やトリディマイトと多形をなしていますが、大気圧下では、220℃から277℃までの温度範囲で徐々にα型からβ型に転移すること、β型からα型への転移温度はそれより30℃前後低いこと、およびα型からβ型に転移する際に体積膨張をともなうことが知られています2)。X線分析だけでは、クリストバライトの含有量を求めることができませんので、クリストバライトの含有量を適当に仮定して、ターナーの式を用いて三城目安山岩の線膨張係数を計算してみました。その結果、クリストバライトが15~20%含まれるとした場合の計算値が実測値と対応していることがわかりました。図には示していませんが、降温時における測定では、線膨張係数が最大になる温度が昇温時におけるそれよりも約30℃小さくなっていることも、クリストバライトの相転移の特徴(β型からα型への転移温度はα型からβ型への転移温度より30℃前後低い)と一致しています。小松安山岩の場合も、少量のクリストバライトが含まれているとすれば、実測値をよく説明することができ、また、計算値も実測値と一致するようになると考えられます。


ところで、クリストバライトが相転移する温度範囲における線膨張ひずみは、大気圧下と拘束圧49.0MPaの下での測定では大きく異なっており、前者は後者の約2倍になっています。これは、前者の場合クリストバライトの相転移に伴って微小クラックが発生し、その影響を受けているためであると考えられます。したがって、三城目安山岩のようにクリストバライトが多量に含まれている場合には、その相転移が起こる温度範囲における熱膨張特性は、微小クラックの発生の影響も受けることになります。


このように、高温下における安山岩の熱膨張特性は、構成鉱物の熱膨張特性の影響を受ける以外に、クリストバライトが含まれている場合には、その相転移に伴う体積変化および微小クラックの発生の影響を大きく受けることがわかりました。




参考文献
1) 木下直人, 安部 透,奥野哲夫:高温、拘束圧下における火成岩の熱膨張特性,土木学会論文集,第511号/Ⅲ-30,pp.69-78,1995.
2) Deer, W. A., Howie, R. A. and Zussmann, J. : Rock-forming minerals, Vol.4, Longman, pp.179-230, 1975.