
岩石の線膨張係数の測定例
前々回と前回は、岩石の線膨張係数の測定方法について紹介しました。今回は岩石の線膨張係数を実際に測定した例について紹介したいと思います。なお、今回紹介する例では、いずれもデシケータ乾燥した試料を用いています。

a)線膨張ひずみ

b)線膨張係数(昇温時)
図-1 稲田花崗岩の線膨張係数測定結果
図-1a)は、高温下において稲田花崗岩(茨城県産)の線膨張ひずみを測定した例です。熱膨張挙動に対する拘束圧の影響を調べるため、大気圧下、9.8MPa、29.4MPaおよび49.0MPaの4拘束圧(静水圧)条件下において測定を行っています。一般に、岩石の熱膨張挙動は温度履歴の影響を受けますので、測定は昇温時と降温の両方の場合について行っています。
線膨張ひずみ~温度関係曲線の勾配が線膨張係数になりますので、図-1a)から簡単に各温度における 線膨張係数を求めることができます。実際に、昇温時における稲田花崗岩の線膨張係数と温度の関係を求めてみた結果を図-1b)に示します。一般に、線膨張係数の測定においては、測定の最高温度および最低温度付近では、測定精度が低下しますので、最高温度および最低温度から約5℃の温度範囲のデータを除外して、線膨張係数を求めています。稲田花崗岩の線膨張係数は、温度が高くなるにしたがって増加していますが、その増加の度合いは拘束圧が小さいほど著しくなっています。例えば、大気圧下では、250℃での線膨張係数は50℃でのそれの2倍以上の値を示しています。また、高温での線膨張係数は、拘束圧が大きくなるにしたがって小さくなっています。ここに示した稲田花崗岩だけでなく、高温下における花崗岩質岩石の線膨張係数は、温度と拘束圧の両方に依存するという結果が得られています。

a)線膨張ひずみ

b)線膨張係数(昇温時)
図-2 三城目安山岩の線膨張係数測定結果
図-2は、三城目安山岩(福島県産)の線膨張係数を測定した結果です。50℃付近の温度では、花崗岩質岩石よりも線膨張係数は小さくなっていますが、250℃前後の温度になりますと、著しく大きな線膨張係数の値を示しています。拘束圧が大きくなると、全体的に熱膨張量が減少するとともに、線膨張係数がピークを示す温度がやや高温側にシフトする傾向がみられます。そして、このような特徴を示す温度範囲は、昇温過程より降温過程の方が20~30℃低くなっています。また、拘束圧が大きい場合には、試験後再び室温に戻したときの供試体の長さが、試験開始時のそれよりも短くなって(収縮して)います。このように、三城目安山岩の熱膨張挙動には、花崗岩質岩石のそれとは大きく異なった特徴がみられます。

a)線膨張ひずみ

b)線膨張係数(昇温時)
図-3 大谷石の線膨張係数測定結果
次に、堆積岩の線膨張係数を測定した例を紹介します。図-3は大谷石(大谷凝灰岩)の線膨張係数を測定した結果です。昇温時においては、室温から約100℃までの温度範囲では、線膨張ひずみは温度上昇に伴ってほぼ直線的に増加しており、拘束圧による違いもほとんどみられません。大気圧下では約120℃、拘束圧下では約140℃以上になりますと、試料は収縮し、線膨張係数は負の値を示すようになります。200℃以上になりますと、拘束圧が小さい場合には、再び温度上昇に伴って膨張するようになるのに対して、拘束圧が大きい場合には、さらに収縮を続けています。280℃で一定温度を 保持している際にも、試料は収縮を続けています。このように、昇温時の大谷石の「熱膨張挙動」(「熱膨張・収縮挙動」とする方が適当だと考えられます)は複雑で、火成岩のそれとは大きく異なっていますが、降温時になりますと、はるかに単純であり、線膨張係数は拘束圧にも温度にもあまり依存しなくなっています。
以上の測定例からもわかるように、岩石の種類によって、熱膨張・収縮特性は大きく異なっています。次回は、なぜ岩石によってこのように熱膨張・収縮特性が異なるかについて考えてみたいと思います。
1) 木下直人, 安部 透, 奥野哲夫 : 高温,拘束圧下における火成岩の熱膨張特性,土木学会論文集,第511号/Ⅲ-30, pp.69-78, 1995.
2) 木下直人, 安部 透 : 高温下における堆積岩の熱膨張・収縮特性,土木学会論文集,第517号/Ⅲ-31, pp.53-62, 1995.