コラム

岩石の線膨張率測定(その2)拘束圧下における測定

実験編/第7回担当:木下直人(2002.01)


岩石の強度や変形特性が拘束圧に依存することはよく知られており,それを調べるための三軸圧縮試験や三軸クリープ試験はごく一般的に行われています。岩石の熱膨張特性も拘束圧に依存することが明らかになっていますが,今のところ,拘束圧下における熱膨張率測定はまだ一般的ではありません。


拘束圧下における熱膨張率測定は,熱膨張率の拘束圧依存性を調べることを目的とする場合だけでなく,以下に示すような場合にも重要になると考えられます。


(1)含水飽和状態を保ったままで,高温下における熱膨張特性を調べたい場合
水の沸点は圧力によって変化します。例えば,水圧が2MPaになると水の沸点は200℃を,9MPaになると300℃を超えます。したがって,地下深部では,200℃,300℃といった高温の熱水が存在するのが一般的になります。このような条件下における岩石の熱膨張特性を調べるためには,高い水圧を作用させることにより水が沸騰しないようにして,試験を行う必要があります。このような試験は大気圧下では行うことができませんので,拘束圧下で行うことになります。


(2)岩盤の熱膨張特性に対するき裂の影響を調べたい場合
岩盤の力学特性に対してき裂が大きな影響を与えるということは共通の認識になっています。一方,岩盤の熱膨張特性に対するき裂の影響に関しては,まだ,ほとんど検討が行われておらず,例えば,岩石の熱膨張特性と,き裂を含む岩盤としての熱膨張特性が一致するのか,それとも異なるのかといった基本的な問題についてもよくわかっていません。この問題について実験的に検討を行う場合には,き裂面に応力が作用する条件下で熱膨張挙動を測定する必要があると考えられますので,拘束圧下において熱膨張率を測定することが必要になります。


拘束圧下における熱膨張率の測定は,前回紹介した大気圧下における測定と比較すると,以下のような理由で,技術的には格段に難しくなります。


(1)温度が変化する環境下で熱膨張量を測定しなければならない
精度のよい測定を行おうとする場合,熱膨張量の測定は必ず三軸セル内で行う必要があります。しかし,一般にどのようなタイプの変位計(ひずみ計)であっても,使用できる温度の限界があります。また,使用可能な温度の限界以下であっても,温度が変化する環境下では,測定精度は間違いなく低下します。したがって,精度のよい測定を行うためには,供試体の温度が大きく変化しても,変位計設置部分の温度変化ができるだけ小さくなるような工夫が必要になります。


(2)測定装置自身も温度変化によりひずむ
熱膨張率を測定するための装置も,測定中は温度が変化しますので,それに伴い,膨張や収縮をすることや,熱応力によりひずむことは避けられません。できるだけ正確に測定を行うためには,熱応力によるひずみができるだけ小さくなるような構造にするとか,熱膨張率の小さな材料を用いるといった工夫が必要になります。


(3)供試体全体の温度を一様に保つのが困難
通常は,側液の温度をコントロールすることにより,間接的に供試体の温度をコントロールしています。側液の温度は,どうしても上下方向で差が生じます(上部で温度が高く,下部で低くなる)ので,供試体の温度もそれを反映して,上下方向で差が生じてしまいます。また,側液の温度と供試体の温度は一致しませんので,それも考慮して,供試体の平均的な温度をできるだけ正確に求める工夫が必要になります。


(4)耐熱性のある材料を用いる必要がある
三軸セルを構成する材料,側液およびメンブレン等は,高温に耐えられるものを用いる必要があります。一般にこのような材料は,200℃以下であれば,比較的容易に見つけることができますが,それ以上の温度になると見つけるのが非常に困難になり,材料の値段も大幅に高くなります。このような事情から,高温下における三軸試験装置の場合,温度200℃以下のものと比べてそれ以上の温度で試験できるものは非常に少なくなります。


拘束圧下における熱膨張率測定用三軸セルの例を図-1に,供試体の設置状況を写真-1に示します。材料試験機のトップメーカーであるMTS社製の装置ですが,その一部を私が改良したものです。三軸室下部に設置されている差動トランス型変位計を用いて加圧盤間の相対的変位を測定することにより,供試体の線膨張ひずみを測定できるようになっています。変位計が設置されている部分の温度は,断熱板を設けることにより,供試体周辺の温度が300℃になった場合でも,50℃以下に保たれるようになっています。加圧盤は,熱膨張量ができるだけ小さいことが望ましいので,スーパーインバー製としています。


図-1 熱膨張率測定用三軸セル
図-1 熱膨張率測定用三軸セル

写真-1 供試体の設置状況
写真-1 供試体の設置状況

大気圧下においても,拘束圧下においても,標準試料として溶融石英を用いることにより試験装置の温度ドリフト量を求め,それに対する補正を行っています。標準試料として溶融石英を用いるのは,線膨張係数が既知であり,かつ線膨張係数が非常に小さい(約5.5×10-7/℃)からです。また,供試体の上中下3箇所に熱電対を埋設して測定中の供試体内の温度分布および側液との温度差を実測し,それに基づいて供試体の平均温度の経時変化をできるだけ正確に求めるようにしています。このような工夫をすることにより,拘束圧下においても,かなり精度よく岩石の熱膨張挙動を測定することができるようになりました。




参考文献
1) 木下直人, 安部 透, 奥野哲夫 : 高温,拘束圧下における火成岩の熱膨張特性,土木学会論文集,第511号/Ⅲ-30, pp.69-78, 1995.