
変形の不連続性を考慮した解析(その2)
岩盤力学の分野においては、1970年代に有限要素法を用いずに岩盤の変形挙動を解析する方法も考案されました。これは、変形の連続性を前提としない方法であり、有限要素法と本質的に異なるものです。
代表的な方法は、Cundallらが考案したもので、個別要素法(DEM:Distinct Element Method)と呼ばれました。これは、地盤や岩盤の変形挙動を次のようにして表現します
まず、解析したい領域に円形や多角形の剛体を敷き詰めます。これは、砂地盤やキ裂が縦横無尽に入った岩盤をモデル化したものです。それぞれの剛体は、良く知られた運動方程式F=mαにしたがって運動します。掘削などによって剛体が動き、それぞれが接触すると、その速度に比例した反発力が発生します。剛体同士がガツンガツンと接触を繰り返し、そのうち新しい平衡点に到達します(図-1)1)。

図-1 個別要素法の一例 (Comprehensive Rock Engineering より)
この方法の特徴は、有限要素法のように解析領域全体での力の平衡を解くのではなく、接触している二つの剛体について運動方程式を解いている点です。全体がどのように挙動するかは、二つの剛体の相互作用が繰り返され、それが伝搬した結果として求められる訳です。
東大の川井先生が考案した、剛体バネモデル(RBSM:Rigid Body-Spring Model)も有名です (図-2)。この方法では、剛体同士の接触面にバネが入っているものとし、剛体の変位と接触面の応力との間に比例関係を仮定します。これをもとに、有限要素法と類似の方法で解析領域全体の平衡方程式を解きます。接触面の応力が破壊条件を超えるような場合には、このバネを切ってしまい、剛体同士の相互作用が無くなるものとします。これにより、岩盤不連続面の滑りや開口が表現されます。

図-2 剛体バネモデル
最近では、剛体ではなく変形性の要素を用いる方法も考案されています(図-3)。それぞれの要素の相互作用を、個別要素法のように運動方程式を解いて求めるのですが、各要素の変形は有限要素法により求めます。

図-3 変形性の要素を用いた個別要素法(3DECを用いた)
私は、1980年代に個別要素法の勉強をしたことがありますが、コンピュータの速度が低く、数10個の要素の運動を求めるのに一苦労しました。しかしながら、もしコンピュータの演算がものすごく速くなったならば、地盤や岩盤の変形挙動を表現する方法は、個別要素法のようなものになるのでは、と思ったものです。それは、次のような解析を行っているときの直感です。
図-4は、円盤状の要素を並べて自重での変形を求めたものです。各要素は反発力が発生しても分離しないようにしてあります。有限要素法で求めた変形と良く一致しています。個別要素法では、各要素について運動方程式を解き、二つの要素間の相互作用のみを考慮しているにもかかわらず、領域全体で静的な平衡状態が表現されています。図-5では、要素間の距離がある程度大きくなると要素が分離するとした場合です。要素の「集合」が、領域から分離していく様子がわかります。このような挙動は岩盤とよく似ており、各要素は岩石を構成する鉱物のような粒子を表現しているように見えます。

図-4 要素の分離を禁止した個別要素法と有限要素法の比較

図-5 要素の集合体の抜け落ち
岩石や岩盤は、より小さな粒子より構成されていますが、その粒子の相互作用を全て解くことができれば、岩石や岩盤と同じ変形挙動をするモデルを作ることができます。もちろん、岩石や岩盤特有の不連続面や、破壊現象なども容易に表現できるはずです。ただし、何億という粒子を相手にしなければならないでしょうからコンピュータは大変です。しかし、コンピュータの演算速度は指数関数的に増加していることから、この夢が実現できる日もそう遠くないのではないでしょうか。
1)COMPREHENSIVE ROCK ENGINEERING (Volume 2 : ANALYSIS AND DESIGN METHODS)