
変形の不連続性を考慮した解析(その1)
岩盤とは何か、という問いに対して力学的な観点からは、様々な大きさの不連続面を多数含有し、弾性的に挙動するものと答えることができます。固い鉱物からなる岩石が弾性的に(バネのように)変形できるのは、内部に無数の空隙を有しているためです。これらの不連続面は、岩盤の変形挙動を特徴づけます。例えば、メートルサイズの不連続面はトンネル掘削時の岩盤変形を左右しますし、地殻変動や火山活動により地表面が変形する際には、断層などの大規模な不連続面が変形に影響を及ぼします。
有限要素に岩盤らしさを加えるためには、どうしても不連続性の影響を考慮することを避けて通れません。このため、いろいろな試みが成されてきました。
有限要素解析に不連続性を持ち込む方法は、大きく分けて二つあります。一つは、要素に比べて不連続面が小さく、また多数あるために、マクロに見たときには連続体のように挙動している、と考える方法です(図-1)。確かに、岩石試験などを行うと、空隙や小さな不連続面が多数観察されるにもかかわらず、岩石のテストピース全体は弾性的に挙動します。

図-1 多数の不連続面の分布イメージ
この方法では、岩石の変形性を定める定数、例えばヤング率やポアソン比を、不連続面の状態(大きさや数など)に応じて決めます。空隙や不連続面が多い岩盤は変形しやすくなりますから、例えばヤング率は低く設定します。
変形が進み新たな不連続面が発生することも考えられます。このときには、不連続面の発生の仕方を数学モデルで表現し、これに基づいてヤング率やポアソン比などを変更していきます。最近では、クラックテンソルやMBCモデルなどの研究により、不連続面を多数含む岩盤を連続体として取り扱う方法論が明確になってきています(図-2)。

図-2 MBCモデルの概念(吉田、堀井、土木学会論文集1996)
もう一つの方法は、不連続面を直接モデル化してしまおうとするものです。岩盤をモデル化する際に、不連続面の力学的な挙動を表現できる有限要素を、連続体要素に混ぜて使います。ジョイント要素や接触面要素と呼ばれるものがこれです。これらの要素では、面の滑動条件を設定し、これを超えるせん断応力や引張応力が 発生した場合には、面の上下の要素が滑ったり離れたりするようにしておきます。このような不連続面のモデル化は、不連続面の影響が視覚的に分かりやすい反面、不連続面の力学的な挙動を記述することや、面の物性値を定めることが難しいといった弱点もあります。
もう一つ困った問題は、既に存在する不連続面ではなく、岩盤の破壊現象などに伴って新たに不連続面が発生するような場合です。このとき、不連続面が発生する場所を予測しておかなければならず、それならば計算しなくて良い、といった矛盾に陥ります。
このような場合の一つの解決策として、次のような方法を紹介します。それは、有限要素の周囲にジョイント要素をくまなく配置しておく方法です。わたしは、要素を六角形にまとめ、その周囲にジョイント要素を配置する方法を用いました(図-3)。この方法では、ジョイント要素の応力が破壊条件を超えるまでは、モデル全体は連続体として挙動します。いずれかのジョイント要素で破壊が発生すると、その部分は不連続面となります。この不連続面が成長する際には、常に120°で2方向の選択がされ、最も成長しやすい方向を見いだすことができます。

図-3 ジョンイト要素の配置方法
図-4は、既存の不連続面からの、新しい不連続面の成長をシミュレートしてみた結果です。力を加える方向により不連続面の成長方向が違うことがわかります。図-5は、円形空洞から成長する不連続面の様子を調べたものです。円孔の側面で滑りが発生し、そこから不連続面が開口しながら成長していくことがわかります。

図-4 荷重の方向と不連続面の成長方向

図-5 円孔からの不連続面の成長
最近では、コンピュータのCPU速度が目を見張るほど速くなり、不連続面を考慮した計算も短い時間で結果を見ることができるようになりました。今後は、3次元モデルで不連続面の成長をシミュレートするなど、有限要素法に岩盤らしさをさらに加えていくことができると思います。
今回は、有限要素法に限定して不連続面の取り扱い方を紹介いたしましたが、次回は、それ以外の方法について紹介する予定です。