コラム

含水状態による岩石の強度の変化(その2)-応力腐食

実験編/第4回担当:木下直人(2001.05)


脆性岩石の破壊は、内部に存在する微小き裂(マイクロクラック)の発生・成長および集積によると考えられています。従来は、き裂先端の応力場がある臨界値に達したときき裂が成長し、それらが集積する過程で最終破壊に至るとされていましたが、現在は、臨界値以下でもき裂の成長現象(subcritical clack growth)がみられることが明らかになり、その重要性が認識されています1)


臨界応力値以下におけるき裂成長のメカニズムはいろいろ提案されているようですが、応力腐食(stress corrosion)が主要なメカニズムであると多くの研究者が考えています。応力腐食とは、き裂を含む材料が腐食性の環境下におかれた場合、応力集中によりき裂先端での原子結合が次第に弱化する(原子結合力が弱められる)現象であり、金属材料の分野では古くからその存在が指摘されていました。珪酸塩鉱物の場合、反応物質は水ですので、岩石内部のき裂の成長は、き裂先端近傍の局所応力状態だけでなく、水の存在の影響を受けます。したがって、水中ではき裂が成長しやすくなり、岩石の強度が低下することになります。


応力腐食反応が起こるためには、反応物質である水が、反応場所であるき裂の先端に存在する必要があります。ひずみ速度が遅く、き裂がゆっくり成長する場合には、水の移動速度はき裂の成長速度と比べて十分に速いため、き裂の先端には十分な水が存在することができ、応力腐食反応が進行する時間が十分にあります。それに対して、ひずみ速度が速い場合には、水の移動速度がき裂の成長速度よりも遅くなるため、き裂の先端に水が存在することが困難になります。このように、応力腐食による岩石の劣化は時間に依存する現象です。岩石の強度や変形特性が時間に依存すること(例えば岩石の強度のひずみ速度依存性、疲労破壊やクリープ破壊といった現象)はよく知られていますが、これを説明するためには、時間に依存する岩石の劣化作用を仮定する必要があり、応力腐食反応が重要な役割を果たしていると考えられています。


図-1 岩石の引張強度におよぼすひずみ速度および含水状態の影響
図-1 岩石の引張強度におよぼすひずみ速度および含水状態の影響

図-1は、岩石の引張強度のひずみ速度依存性およびそれに対する含水状態の影響を測定した例2)です。試験方法については既に紹介しましたので、ここでは省略します。含水飽和状態および乾燥状態のそれぞれについて試験を実施しており、ひずみ速度は10-7、10-6、10-5、10-3、10-1/sとしています。ひずみ速度を最高10-1/sとしたのは、使用した装置で試験可能な最高ひずみ速度が約1×10-1/sであるためであり、 このときの破壊までに要する時間はわずか4msでした。


この試験の目的は、発破振動に対する岩石の引張強度を求めることでした。この図から、一軸引張強度はひずみ速度の増加に伴って顕著に増加しており、通常のひずみ速度における引張強度をそのまま用いるのは明らかに不適切である ということがわかります。対象とした岩盤の発破振動時のひずみ速度は、図に示すように、4.8~12.0/s程度であると推定されました。一軸引張試験結果から求められた引張強度~ひずみ速度関係を外挿することにより発破時の振動に対応する岩盤の引張強度を求めてみますと、通常の試験時のひずみ速度(1×10-6/s程度)における引張強度の約2倍になっていることがわかります。


この図から、ひずみ速度が遅いほど水の存在による引張強度の低下が著しい(乾燥状態と含水飽和状態との強度の差が大きい)こと、およびひずみ速度が非常に速くなると、引張強度に対する水の影響はなくなることがわかります。これらの特徴は、前に述べた応力腐食反応による 岩石の劣化作用の特徴とよく対応しています。




参考文献
1) 例えば、Atkinson, B. K. : Fracture mechanics of rock, Academic Press, 1987.
2) 木下直人,堀田政國,松井裕哉,杉原弘造:発破振動計測と引張強度試験に基づく掘削損傷領域の評価,第29回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.221-225,1999.