
含水状態による岩石の強度の変化
岩石の強度は、含水状態の影響を受けやすいということはよく知られています。含水状態の違いによる強度の違いがどの程度あり、それはどのようなメカニズムによるのかという疑問は、岩盤工学を専門としている人にとっては非常に基本的なものに思われます。それにもかかわらず、この疑問に答えられる人はあまり多くないのではないでしょうか。私も正確に答える自信がありません。

表-1 岩石の一軸圧縮強度に対する含水状態の影響1)
表-1は、筆者らが3種類の岩石(稲田花崗岩、三城目安山岩、大谷凝灰岩)の一軸圧縮強度に対する含水状態の影響を調べた例1)です。炉乾燥状態(110℃で24時間炉乾燥した後、デシケータ内で室温に戻した状態)、デシケータ乾燥状態(デシケータ内で2週間乾燥させた状態)、および含水飽和状態(72時間以上真空ポンプを用いて減圧水浸させた状態)のそれぞれについて、一軸圧縮試験を実施し、一軸圧縮強度の比較を行っています。110℃で24時間炉乾燥させた状態を飽和度0とすれば、デシケ-タ乾燥状態での3種類の岩石の飽和度はいずれも4~5%でした。3種類の岩石とも含水状態によって大きく強度が変化していることがわかります。
岩石の中に含まれる水分が強度に影響を及ぼすメカニズムはいろいろ提案されているようですが、私は、以下の三つのメカニズムが重要であると考えています。なお、ここでは、間隙水圧としての影響は対象外とします。
(1) 化学的変化をともなう岩石の粒子間結合力の低下
(2) サクション
(3) 応力腐食
(1) 化学的変化をともなう岩石の粒子間結合力の低下
堆積岩のように、膠結物質(セメント物質)の強度がその岩石の強度を支配している場合には、水分が存在することによって、膠結物質として機能している鉱物が溶解したり化学的に劣化したりすると、その影響により岩石の強度は低下します。岩石のなかには、わずかな水分が存在しただけで 膠結物質が溶解してしまうものがあり、このような岩石では強度が著しく低下します。
(2) サクション
岩石の間隙内に存在している水分の大半は重力水ですが、それ以外に、岩石を構成している鉱物粒子の接触点近傍で表面張力によって保持されている水分や、粒子表面で粒子からの吸着力によって保持されている水分があります。これらの水分は、大気圧に対して負の圧力をもっています。この負の圧力はサクションと呼ばれており、岩石の拘束力(粒子相互の結合力)として作用します。岩石を乾燥させていくと、サクションが大きくなり、その影響により岩石の強度が増加します。

図-1 岩石の一軸圧縮強度とサクション(Suction)の関係2)
図-1は、サクションによる岩石の一軸圧縮強度の変化に関する実験例2)を示しています。横軸はサクションをpF単位で表しており、pF0は飽和度100%、pF7は相対湿度0%に相当しています。pFが5以上になると、サクションが岩石の強度に影響を及ぼす可能性があると予測され、実験結果もほぼそれに対応しています。この例では、サクションにより岩石の強度が2倍以上になる場合もあることが示されています。表-1に示した実験例において、炉乾燥状態における一軸圧縮強度とデシケータ 乾燥状態におけるそれとを比較すると、前者の方が、稲田花崗岩では約4%、三城目安山岩では約26%、大谷凝灰岩では約10%強度が大きくなっていますが、これもサクションの影響によると考えられます。
サクションの影響は、一般に多孔質の岩石(比表面積の大きい岩石)において、飽和度が非常に小さい(例えば0~10%)範囲で特に顕著にみられます。
(3)応力腐食 応力腐食に関しては、次々回紹介する予定です。
1) 木下直人,安部 透,若林成樹,石田 毅:高温下岩石の力学特性に関する研究,土木学会論文集,第561号/Ⅲ-38,pp.151-162,1997.
2) West, G. : Effect of suction on the strength of rock, Quarterly Journal of Engineering Geology, Vol.27, pp.51-56, 1994.