
一軸引張試験
岩石の引張強度を求めたい場合,試験方法が簡単なことから,通常圧裂引張試験が行われています。しかし,引張応力下における変形特性を求めたい場合には圧裂引張試験は不向きであり,一軸引張試験を実施する必要があります。
一軸引張試験は,一様な引張応力を供試体に作用し破壊させるというきわめて簡単な原理により岩石の引張強度を求める方法であり,一見簡単そうにみえます。私もそう思ったので,一度試みたことがあります。金属の一軸引張試験で使用されているような,中央部分がやや細くなっている供試体を作成したり,供試体を試験機のつかみ具に固定したりすることも,手間はかかるものの,技術的にはそれほど難しいとは感じませんでした(図-11)につかみ具と供試体の例を示す)。しかし,供試体に一様な引張応力を作用させることは非常に難しく,どうしても供試体に偏圧が作用してしまうため,大部分の試験において,本来の引張強度よりもずっと小さな引張応力で破壊してしまいました。

図-1 一軸引張試験用つかみ具と供試体の例
数年前,東大の大久保先生と福井先生が,新しい,比較的簡単にできそうな試験方法を提案しているのを論文2)で知りました。その方法は,供試体と上部および下部の載荷板との間にエポキシ系接着剤を塗布した後,実際に試験を行うのと全く同じように供試体を設置し,数kg程度の圧縮力を作用させた状態で,接着剤を硬化させるというものであり,特別なつかみ装置や特別な形状の供試体を全く必要としません。
私も,大久保先生と福井先生に指導していただき,同じ方法で一軸引張試験を行ってみました。その結果,供試体の側面に貼付した2個のひずみゲージはほぼ同じ挙動を示しており,荷重は均等に作用していることが確認されました。また,得られた引張強度の値も圧裂引張試験から求められた値とほぼ一致しました。引張応力下において,強度特性と変形特性の両方を求めたい場合には,この方法は最も優れた方法だと思います。
実際に,図-2に示す方法(含水飽和状態の場合)で一軸引張試験を行ってみた結果,試験を成功させるためのポイントは以下の2点だと思いました。

図-2 一軸引張試験(含水飽和状態の場合)
(1) 接着剤の選定
実際に一軸引張試験を行ってみますと,岩石の種類によっては,供試体の端面にごく近いところで破壊する場合が多くみられました。これは,供試体端面成形時に損傷を受け,端面付近の強度が低下していたためと考えられます。このような岩石でも,粘性の小さな接着剤を用いると,接着剤が浸透することによって補強され,端面付近で破壊することがなくなりました。
また,岩種,試験条件によっては引張強度が20MPaに達する場合があります。このような場合には,充分な接着強度を有する接着剤を用いる必要があります。
(2) 接着時の圧縮力
接着剤は厚すぎても薄すぎても接着力が弱くなります。したがって,接着時に作用させる荷重は大きすぎても,小さすぎてもよくありません。私が用いたエポキシ系接着剤の場合,4kgf/cm2程度の荷重を作用させるのが適当でした。
ところで,図-2では,供試体の変位の測定に載荷板に取り付けた差動トランス型変位計を用いています。一般に,岩石の一軸圧縮試験を行う場合,供試体と載荷板との接触部分の変形量が大きいので,上下の載荷板の距離の変化から供試体の変形量を求めるのは適当ではありません。しかし,一軸引張試験の場合,供試体と載荷板とが接着されており,かつ接着層も非常に薄いので,図-2に示す方法で測定した値に載荷板の変形分の補正を行った値は供試体に直接貼付したひずみゲージによる測定値とよく一致します。したがって,一軸引張試験の場合に限り,図-2のような方法で供試体の変形量を求めることは全く問題ありません。
1) 地盤工学会編:岩の工学的性質と設計・施工への応用,地盤工学会,1974.
2) 福井勝則,金 豊年,大久保誠介:一軸引張荷重下での岩石の完全応力-歪曲線,第9回岩の力学国内シンポジウム講演論文集,pp.271-276, 1994.