やわらかサイエンス

しんかしないしんかい魚、シーラカンスの話―深部の環境特性と、地層処分を考える―

第67回担当:重廣道子(2013.09)

近頃、「深海」が人々の興味を刺激しているようです。
テレビ番組では特集が組まれ、ダイオウイカを代表とした深海の生物の生態が紹介されました1)
この夏、深海に関する特別展が開催されている博物館もあります2)

深海の生物には、ダイオウイカのように巨大であったり、ちょうちんアンコウのようにユニークな姿をしていたり、スケーリーフットのように鉄の鱗を持っていたりと、陸上で生活をする我々の想像を超えた姿、生態に驚かされるばかりです。
なかには、3億年以上も前から現在までほとんど進化をしていないといわれている魚、シーラカンスがいます。

オウムガイイメージ

恐竜が出現する前からシーラカンスは地球に生息し、恐竜と共に白亜紀末(約6500万年前)に絶滅したと考えられていました。しかし、1938年に現生種が見つかり、現生種と化石種を比べてみたところ、2種の形態がほとんど変わらないことから、「生きた化石」と呼ばれるようになりました3)

シーラカンスは水深200m前後から3)深くは約700mの深海に生息し4)、大きなものは体長2mにもなります3)4)5)
魚類としては長生きで、60年~100年生きるといわれています5)6)。しかし、近年の研究結果で、現存するシーラカンスは1000匹程度と推定されているように5)6)、絶滅の恐れがあることから、ワシントン条約によりその取引が厳しく制限されています7)

メンダコイメージ

このシーラカンスを5体も見ることができる水族館があります7)

展示されている5体のうち3体は剥製標本、2体は冷凍標本です。
水槽の中を泳ぐ、生きているシーラカンスではありません。少し残念な気もしますが、冷凍マグロのように霜で体の表面が覆われたシーラカンスを想像して冷凍標本を見ると、「本当に冷凍?」、「本物の剥製?」と眼を疑うことでしょう。鈍い光を放つ鱗を持つ冷凍シーラカンスが、曇りのないガラスケースの中に展示されています。

水槽内のシーラカンス
-沼津港深海水族館7)にて撮影-



標本の魚は、水槽の中を泳ぐ魚と比べてやや地味な印象をうけます。しかし、静止しているおかげで、鱗の一枚一枚、開いている口の中に並んでいる歯の一本一本など、細部をじっくり観察することができます。

シーラカンスイメージ

これらの剥製・冷凍シーラカンスが展示されている傍には、ハリモグラが展示されています。
水族館なのに、なぜハリモグラを展示しているのでしょう。

シーラカンスは魚類に分類されています。しかし、他の魚とは違った特徴をいくつも持っています7),8),9)。例えば...
・脊椎がない(代わりに脊柱という管があり、この管の中は体液(油)で満たされています)
・足の役割も兼ねるようなひれを2対(胸ひれ1対と腹ひれ1対)持っている(ひれは合計8枚)
・卵胎生である(卵を産み落とすのではなく、哺乳類のように胎内で卵を孵化させて産む)

それでは、ハリモグラはどうでしょうか。
ハリモグラは哺乳類に属しますが、哺乳類には見られないあることをします。
あることとは、爬虫類や鳥類のように卵を産み、育児嚢と呼ばれる袋の中で、孵化したこどもを育てるということです。

魚類から四足陸生動物へ、鳥類から哺乳類へと進化する途中で変化が止まってしまったような、この「自らが属するグループの他の仲間たちとは何かが違う」という共通点を持つことから、ハリモグラとシーラカンスが隣り合わせで展示されているというわけです。

ホシザメイメージ

適者生存説によると、現生に生存している生物は、環境に最も適したものということになります。

近年発表された研究結果では、シーラカンスは遺伝子の進化が極めて遅く、3億年以上も前からその形がほとんど変わっていないことが示されています10)11)
形をほとんど変えないまま、現生している。
つまり、生き残るために進化・変化する必要がなかった=安定した環境に生息していた
と推察されます。

シーラカンスの化石は淡水・海水域でも見つかっていますが、現在生息が確認されているのは海水域だけです7)。しかも、限れた地域、アフリカ(南アフリカ、コモロ諸島、タンザニア)とインドネシア近海の深海です3)7)8)
深海は、河川や湖、浅い海と比較して、水質、水温が安定しており、外部からの侵入も限られている環境だと考えられています。

ヒメコンニャクウオイメージ

変化の無い安定した環境。
海の深部だけではなく、陸地の深部も安定した環境だと考えられています。

深海で発見されたシーラカンスのように、地層で発見される化石は、環境の安定性の指標のひとつになります。
形が整ったきれいな化石は、どこでも見つかるわけではありません。
例えば、化石が、過去に生息していたと推察されるある環境(地層)において、地殻運動により破砕されたり、地下水との反応によって溶解されることない形で発見された場合、その場所は変化の少ない環境と推察されます12)

地下環境の安定性については、化石だけではなく、様々な技術を使って調査が行われます12)

この地下の安定した環境を利用して進められようとしているのが地層処分です。
原子力発電に使用された燃料を再処理することにより発生する高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物の一部は、地下300m以深の地層中に処分することが国の法律で決められています13)14)

オウムガイイメージ

深海が安定している環境ならば、深海に処分してはどうか?
海洋に放射性廃棄物を投棄するという方法は、過去に実施されたことがあります15)
海洋に投棄された放射性廃棄物は、原子力分野だけでなく医療分野での放射線利用から生じる放射性廃棄物もあり、放射性物質の濃度も様々です16)
放射性廃棄物の海洋投棄については、1946年に米国が最初に実施し、それに幾つかの国々も続きました15)17)。日本も、1995年~1968年の間、放射性廃棄物(当時の社団法人日本放射性同位元素協会が行っていた放射性同位元素の分配作業で発生した放射性廃棄物)を日本周辺の海域に投棄していました18)。しかし、1975年に条約によってOECD加盟国による海洋投棄は規制され、1993年に廃棄物の種類や放射能レベルを問わず全面的に禁止されることとなりました15)

メンダコイメージ

高レベル放射性廃棄物が天然のウランと同じくらいのレベルになるまでの年月は、使用済みの燃料を直接処分した場合は10万年、再処理(軽水炉用)をした場合は約8000年と試算されています19)
再処理については、後ほど簡単にふれます。

3億年と比較すれば、短いようにも思えます。
しかし、安定した環境と考えられる深海、地下深部も、近年、外部からの侵入が活発になっています。

例えば、新たな資源を求めて、頁岩層に胚胎されていれるガス(シェールガス)を回収するために、地下数百~数千メートルに存在する地層に人の手が入り始めています20)

海洋でも、メタンハイドレートを求めて、水深500m以深の開発が進んでいます21)22)
人間が侵入し始めた深海、地下深部は、もうそこに住む生物たちにとっては、安定した環境とはいえないのかも知れません。

ボーリング調査イメージ

地層処分に関するコマーシャルを見なくなって久しくなりますが、地層処分の計画がなくなったわけではありません。

「知ってほしい、
今、地層処分」23)
「電気を使う全ての人に読んでほしい」24)25)

地層処分に関するさまざまな「ほしい」がインターネットで掲げられています。
『◯◯してほしい』、ほしい、ほしいと言われると、なんとなく◯◯したくなくなってしまうものですが、責任ある電気利用者として、是非ごらんになってみて下さい。
さまざまな疑問がわいてくるはずです。

今、原子力発電所の運転を停止しても放射性廃棄物は既に存在し、貯まっています。

原子力発電に使用された燃料には、まだウランとプルトニウムが残っています。日本は、原子力発電により発生する使用済み燃料から更に燃料を取り出すため、その再処理の大部分をフランスとイギリスに委託してきました。
日本で初めての所業用再処理工場は、青森県上北郡六ヶ所村で建設が進んでおり、現在、2013年10月の竣工に向けて試験が行われています27),28)
再処理をした使用済み燃料を利用した原子力発電が、「プルサーマル」です29),30)

一方で、使用済み燃料を再処理せず処分する、直接処分する方針をとっている国もあります。既に最終処分場建設地を選定しているフィンランドとスウェーデンは、直接処分をする計画です19)

フランス、イギリスで使用済み燃料が再処理される過程で発生する放射性廃棄物は、化学的に安定した形であるガラス固化体として日本に戻ってきます。
これらガラス固化体の大部分は、青森に所在する高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで冷却貯蔵されています31)。2012年末の時点で、ガラス固化体貯蔵数は1,930本、そのうちの1,683本がセンターに保管されています26)。ガラス固化体は、最終処分場に運ばれるまで、このまま30~50年もの間冷却保管されます。

このように、発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の再処理等の結果生ずる放射性廃棄物は、特定放射性廃棄物と呼ばれます。
特定放射性廃棄物の最終処分の実施主体である原子力発電環境整備機構が平成20年に公表した実施計画では、次の予定になっています32)

平成20年代中頃 精密調査地区を選定
平成40年前後   最終処分施設建設地を選定
平成40年代後半 最終処分を開始

今は平成25年。放射性廃棄物の最終処分場の候補地は公募により選定されることになっていますが、いずれかの市町村から応募があるでしょうか?数年のうちに精密調査地区が決定されるのでしょうか。



仲間たちと考えるイメージ





参考資料
※1 [NHKオンライン:海Ocean and Planet]
※2 [国立博物館:特別展「深海-挑戦の歩みと驚異の生きものたち」]
※3 [東京工業大学大学院 生命理工学研究科 岡田研究室 シーラカンス「生きた化石とは」]
※4 [ナショナルジオグラフィックニュース:シーラカンスの進化は遅かった(2013/4/19)]
※5 [National Geographic:Coelacanth]
※6 [ナショナルジオグラフィック:謎多きシーラカンス、寿命は百年以上?(2011/6/10)]
※7 [沼津港深海水族館]
※8 [ナショナルジオグラフィック:シーラカンス]
※9 [外務省:キッズウェブジャパン「生命進化のなぞを解く」]
※10 [Nature:The African coelacanth genome provides insights into tetrapod evolution]
※11 [産経ニュース:「3億年以上ほとんど進化なし「種」を残したシーラカンス」(2013.4.19)]
※12 [原子力発電環境整備機構(NUMO)冊子「地層処分 その安定性」]
※13 [経済産業省 資源エネルギー庁:特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終改正:平成二四年六月二七日法律第四七号)]
※14 [経済産業省 資源エネルギー庁:放射性廃棄物の概要:処分の方法]
※15 [一般財団法人 高度情報科学技術研究機構:原子力辞典ATOMICA「欧米諸国の放射性廃棄物海洋投棄」]
※16 [一般財団法人 高度情報科学技術研究機構:わが国の放射性廃棄物の種類と区分]
※17 [INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY :Inventory of radioactive waste disposals at sea]
※18 [一般財団法人 高度情報科学技術研究機構:原子力辞典ATOMICA「我が国の海洋投棄中止にいたる経緯」]
※19 [資源エネルギー庁:参考資料「高レベル放射性廃棄物処分について」]
※20 [独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構:シェールガスの広がり]
※21 [メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム:メタンハイドレートとは何か]
※22 [海洋研究開発機構地球深部探査センターの広報誌「地球発見」]
※23 [原子力発電環境整備機構]
※24 [経済産業省 資源エネルギー庁 編集:「電気を使う全ての人に読んでほしい」]
※25 [経済産業省 資源エネルギー庁:放射性廃棄物のページ]
※26 [原子力発電環境整備機構:よくあるご質問 高レベル放射性廃棄物について]
※27 [日本原燃:再処理工場について]
※28 [電気事業連合会:原子燃料の再処理]
※29 [経済産業省 資源エネルギー庁:よくわかる!プルサーマル]
※30 [北海道電力株式会社:プルサーマル計画に対するご質問にお答えします]
※31 [日本原燃:廃棄物管理事業]
※32 [原子力発電環境整備機構:実施計画]
※おまけ[国立科学博物館:学習シートいろいろ]